リズケン設立と研究活動について
代表 江尻 憲和
リズム教育研究所(Rhythm Education Laboratory)は
1980年に創立された国内で唯一の打楽器全般の研究機関です。ジャズ、ラテン、クラシックなどのジャンルを越えて"リズム"というものの不思議さ、おもしろさを追求していくことが、リズケンスタッフの永遠のテーマです。ドラマーのみなさん、一緒に研究をスタートしませんか?
はじめに
プロドラマー、パーカッショニストを目指す難しさは誰もが想像できることでしょう。大音量で練習できるスタジオや、必要となる数百種類にも及ぶ打楽器の確保と保管。それらを運ぶ大型の車両などなど…これらを個人で確保するには膨大な資金が必要であり、さまざまな困難が立ちはだかります。私たちももちろんそのような状況でした。
私たちを含めて将来の音楽家を目指すドラマー、打楽器奏者が、充分な設備を持ったスタジオを みんなで共有しながら、演奏テクニックやリズム全般について研究ができないだろうか・・・ よしやってみよう!私財を投じて俺たちのスタジオを建設しよう! そんな夢と理想から1980年に「リズム教育研究所」が設立されました。
創立者は猪俣猛氏の 門下生4名であり、新進ドラマーとして活動中であった 江尻憲和(当時は岩崎宏美ツアー、 スタジオワークなど)、宮地良幸(菊池桃子、タイムファイブなど)、中村秀樹(東京ユニオン ビッグバンド、スタジオワーク)田口隆一(河合奈保子、西城秀樹ツアーなど)でした。
これらのプロフェッショナルドラマーたちがリズケンの設立にどのように関与したか、そして研究所 と研究生制度がどのように発展してきたのかを、ここで簡単に説明しておきたいと思います。
プロドラマーの研究会から発展
1980年当時、20才台前半のセッションドラマーとして多忙を極めていた彼らはテクニックの向上と演奏上の問題点解決のため、毎週ルーディメンツの研究会をおこなっていました。その拠点は現在のケン・ミュージック・スタジオのAスタジオでした。(当時は1F、2ルームのスタジオ)
研究テーマは『All American Drummer』というルーディメンツテキストを使用した厳格なものであり、ウォーミングアップと課題曲が毎週提示され、予備練習なしでは参加できないほど張りつめたものでした。
練習後はテクニカルな情報交換や仕事上の問題点などを語り合い、その議論は翌朝まで続くこともありました。話題の中心はストローク論やフットワークの技術論が中心であり、スティーブ・ガッドなど、来日している米国ドラマーに面会・密着して、テクニカルなアドバイスを受けることもしばしばおこなっていました。
ちなみに1980年前後におけるアメリカの状況はドラム奏法研究の開花時期であり、『Modern Drummer Magazine』や『Modern Percussionist』(後に廃刊)などの研究雑誌の創刊や、「Percussive Art Society」(PAS、国際打楽器芸術協会)の設立など、急速にドラマーの組織化がおこなわれた時期でもありました。
日本における1970年代のドラム教育は依然として「個人の経験則」や「反復練習」をベースしたもので、いまだ専門のテキストも少なく、インストラクションにおける方法論も確立されていませんでした。
その状況を打破するため、最新のアメリカンスタイルを取り入れ、独自の演奏技術論を構築しよう—という意気込みのなか、私財を投じての資料収集やテクニック研究が共同作業として始まりました。
これが「リズム教育研究所」=「リズケン」のスタートです。
リズム&ドラムマガジンの創刊
そのような状況のなか、日本では『リズム&ドラムマガジン』がリットー・ミュージックより創刊され、(※現在はドラムセットが中心であるが、当初はリズム全般を編集方針としていた)江尻憲和を中心とした研究所のメンバーたちが執筆と編集に参加することになりました。
このドラムマガジンでの研究発表が契機となって、日本においてルーディメンツとドラム演奏技術への関心が一気に高まりました。リズム教育研究所の設立と同時に、日本におけるドラム教育の近代化が始まったと言っても過言ではありません。
リズケンの主軸は「研究活動」
その後、研究所付属ドラムスクールの開講や、リズケンの活動拠点となる2Fスタジオの建設、任意団体からの法人化(株式会社ケン・ミュージックへの統合)などがおこなわれました。そのような流れの中でリズケンはあくまでドラム・パーカッション全般の「研究活動」が主軸であり、現在も30年近くその活動を継続しています。
また研究活動の一環として、講師育成と派遣、出版などの発表活動、スクールの運営などの収益活動を事業規模で展開しています。つまりリズケンは現在のNPOに近い組織と考えていただければと思います。
個人スタイルの総体としてのリズケン
リズケンやスタッフの関係している学校を経てプロフェッショナルになった方々はたくさんおられます。しかしその成果は、リズケンに参画し、研究にかかわった一人ひとりが、個々に感じていること、専門家として考えていることを自分の力をもって成就させた結果なのです。
その集合意識が「リズム教育研究所」であり、リズケンの今日の姿なのです。その姿は関わる人の変遷とともに刻々と変化していくべきだと考えています。
ドラムの演奏法に「リズケン流」はありません。特定のテクニックや秘伝、方法論を振りかざすことをリズケンはいたしません。また誰かを育てたという実績を声高にしめすこともおこなっておりません。
確かに古典芸能や武道における徒弟制度などは現在も継続しています。しかし「師匠の技を盗め」「オレのやり方を真似しろ」などの言葉に代表される「師弟関係」はリズケンにはありません。
「研究」とはなにか
さて、研究生を希望する方は、「研究する」とはいったいなにをするのか?と考えているでことでしょう。前述のように、リズム教育研究所は、いわゆる一般的な「ドラムスクール」ではありません。
研究活動を活動の中心においた社会的な組織であり、共同運営の任意団体です。日本で唯一のドラム&パーカッション・ラボラトリーであり、参画している人々がこの組織に共感し、設備を共有し、お互いに喜びを持って自主的に関与していることは間違いありません。
そういった定義から理解できると思いますが、リズケンの研究生とは「リズム教育研究所」という団体に参画したスタッフであり、研究をおこなう「学生であり研究者」です。
ようするに、先生に教えてもらっているドラム教室の「生徒さん」ではありません。研究生を希望される方にはこの意識転換が一番たいせつなことだと思います。
「生徒から学生へ」意識の転換
生徒 = 学校などで教育を受ける者。(受動的、~してもらう、Passive)
学生 = 学業を修める者。特に大学、専門学校で学ぶ者。(能動的、自分でやる、Active)
なぜなのだろう?これはどうなんだろうか? ⇒ 知りたい! ⇒ 自分で調べてみよう!そんな素朴で純粋な気持ちが、研究のスタートになることでしょう。
研究者とは 自らテーマを設定し、調査、考察、整理、発表すること(自発的、Full active)が求められます。この探究心と前向きな姿勢は、個人事業者、プレイヤー、アーティストなどのフリーランサーに必須の条件です。
その研究成果を収益活動に結びつけるスキルを持っている人が「プロフェッショナル」と呼ばれるスペシャリストです。リズケンのスタッフはあなたの研究活動をサポートするために、研究生プログラムを展開し、設備を整え、音楽的な環境を創り、レッスンや研究会、イベントを主催し、時に野外でのフィールドトレーニングをおこない、酒を飲みながら議論をし、プロフェッショナルドラマーに必要となる実践的なアドバイスを的確におこなっています。
いかがでしょうか?リズケンを理解していだだけましたか?さあ、みなさんも私たちと一緒に研究を始めませんか?リズケンスタッフは24時間、ドラム漬けの音楽環境にてみなさんをお待ちしております!