はじめに
【第一章 】現代社会における打ちこみ音楽
第一節 打ちこみ音楽の現状
今、世間一般でCD購入する人は打ちこみの音と生の楽器音をわかっているだろうか?答えは、YESである。なんらかの音楽経験がある人はNOと言うかもしれないだろうが、それほどまでに打ちこみの音が広がってきているということである。また、打ちこみの音をいかに生の楽器音に近づけるかという作業そのものの効率化が上がったと言う点も考えられる。
最近のどの音楽シーンを見てみても、打ち込みを利用しない人はいない。もちろん、生の楽器音にこだわり、それでしかできないことをしている人も事実である。だが、流行モノ、すなわち売れる音楽はほとんどが打ちこみ音楽であり打ちこみ音楽も生の音楽も否定することはできない。では、打ちこみとはなんなのだろうか?それは、PC上で楽譜を書いていく作業のことを意味するのだが最近では技術の進歩によりステップ入力、リアルタイム入力、数値入力等などPC上へのレコーディングの幅も広がってきた。このようにコンピュータを使用し音楽を作成するというのが打ちこみ音楽なのであるが、これまでの生音を中心とした音楽とコンピュータ音楽との融合がいまの音楽シーンの現状であることは確かである。
第二節 過去の産物となった音楽
音楽には、人をひきつける魅力があるからこそ音楽ビジネスが成り立っている。その音楽ビジネスも時代の流行によってさまざまに変化している。その年代事の音楽チャートを見ればそれは一目瞭然である。
私が生まれてから今までの人生では80年代のアイドルブーム、ついでバンドブーム、企画物ブーム等などが上げられるがそれはなくなっていくのではなく、吸収され飲みこまれていくのである。 もちろん、ワールドワイドに見てもそれは当てはまり、ジャンルや生音・機械音に関しても同じである。では、なぜジャンルや流行物が生まれていくのだろうか?そしてこれからどうなっていくのだろうか?
第三節 デジタル化における音楽
技術の進歩は激しくつい先日は情報化社会だったのに対し、すでにその社会を飲みこみ、IT社会・デジタル社会へと進歩している。音楽業界もこのデジタル化の影響は大きく、多くのミュージシャンがITを使い始めているのも事実である。 一昔前でもハード環境の中で、さなざまなツールを使い音楽を作っていたのであるが、最近ではPC+ソフトウェアを使い、音楽を作っている。その差も歴然だが、作業効率の観点から見ても果てしなく向上したことが言える。だが、そのせいからか打ち込み音楽事態が増える結果になったのである。たしかに、楽な環境ではあるが、生音に関しての姿勢が失われがちなのも事実である。そうした打ちこみ音楽と生音との本当の意味での融合はこれからの課題である。 では、次に打ちこみ音楽とは具体的には何なのだろうかといったところを説明していきたいと思う。
【第二章 】打ちこみ音楽とは
第一節 HIPHOP
もともと打ちこみ音楽(エレクトロミュージック)とは、PCやハードのシンセ、エフェクター、サンプラー、シーケンサー、ミキサー等の機材を使い音楽を制作することを指すのだが最近ではPCにすべての機材をソフトウェアとして配置しPC一台ですべての作業をこなすことが可能になった。中でもサンプラーを使い、音楽を作りだしたのがHIPHOPである。ではHIPHOPとはどういったものなのだろうか?
HIPHOPとは、ダンス、ラップミュージック、グラフィティアート(スプレーなどで壁や電車の車両に絵を描く)、DJの4つの要素を含むものであり、またそれ自体が文化でありライフスタイルであるといったものの考えかたでもある。 ラップミュージックとヒップホップミュージックの違いは、ラップはあくまで音楽の形態を指す言葉であり、ラップミュージックがかならずしもヒップホップとはかぎらない。例えば西海岸のギャングスタラップは確かにラップではあるが、暴力を美化するネガティビティなどは、本来暴力を否定しユニティー(団結)などポジティブなものをプロモートするヒップホップの精神に反する点において、ヒップホップではないのである。またHIPHOPは東と西に分けられることがしばしばあるが、主に東は発祥の地であるニューヨークを拠点に展開され、西はロサンゼルスを拠点に展開された。
具体的には東は、まさにHIPHOPだなと感じさせる少しハードコアなラップ中心のヘビーな感じであり、どちらかというと、西のほうがサンプリングなどによってR&Bを取り混ぜている聞きやすいライトな音楽である。そしてヒップホップカルチャーは、1970年代のニューヨークのサウスブロンクス地区で生まれた文化で、当時のスラム街のストリートで生まれ流行したものである。そのルーツは戦前(1921年)に、黒人達の間でブレイクしたジャイブ「JIVE」というもので、他の単語に当て付けて会話する言葉遊びから来ているとされている。 これらの単語を音楽のBEATに合わせ言葉をちりばめることで独特の音楽文化を築きあげてきた。
当時のリリックはとにかくダーティで世の中の不平、不満や、SEXに関することを遠まわしに、もしくはストレートに様々な悪口を歌ったものなどがあった。 そこには人種差別や貧富の差など大きな問題もあったが、同じ人種の仲間達にそれを訴え、分かり合いたいという願望もあったのである。 前述からもわかるようにHIPHOPは、音楽の3要素と言われる"RHYTHM" "MELODY""HARMONY" のリズムを中心とした音楽でRAPと一緒に演奏したことのあるドラマー、パーカッショニストならわかるであろう2重の厚み、ドラマーが二人いるのではないかといったBEAT感が生まれているのがわかり、非常にリズムが重要視しているのがわかる。例えて言うならばクラシック音楽はわざと遅らせたりして情緒的な雰囲気を出そうとしたり、メロディーやハーモニー中心の音楽であるが、アフリカの音楽のようにリズムが音楽の基本となり、叩いて音が鳴ればそれが楽器となり、リズムが刻まれれば音楽が成り立ち、メロディーをつけたければリズムに合わせて歌うといったリズム中心の音楽がある。まさにHIPHOPと同じであり黒人の言葉遊びから始まったと言うのも納得できる。また、リズムによって体が動いてしまうというダンスHIPHOPならではの事であり、最近では、HIPHOPダンスをフィットネスクラブ、スポーツクラブなどが取り入れている事が多く、HIPHOPのリズム性が強いことが証明されている。
ただし、フィットネスなどは有酸素運動をすることが目的なので危険なブレイクなどはさけている。またHIPHOP等のストリートダンスが生まれたきっかけは、街中の黒人がなんとなくリズムに合わせて体を動かしていたのが始まりであることからもまたHIPHOPとダンス、リズムが共存していることがわかる。このように、HIPHOPとはリズム主体の打ちこみ音楽なのである。
第二節 ABSTRACT
次にHIPHOPからの流れでABSTRACTというジャンルの音楽を解析していきたいと思う。ABSTRACTとは、抽象的な、理想的な、空想的な、難しいといった意味をもつ語であり、その音楽は歌の存在しないローテンポのインスト的な音楽であり、実際音楽を聴いてもなるほどといった感が芽生える。
いまでは、ABSTRACTとしてのジャンルは確立されてきたが、昔はTRIPHOPと呼ばれそのルーツはHIPHOPからきていることもその文字を見ても一目瞭然である。では、TRIPHOPとはどのようにして生まれてきたのだろうか?それは、アメリカで生まれたヒップホップをUK流に解釈した実にUK気質なジャンルだと言われている。そのせいか、アシッドハウス等のサイケ調雰囲気など本家ヒップホップにはない,レゲエ的要素や暗さを融合させたのである。元は,レゲエをバックグラウンドに持つグランドビートクリエーター達が本家に対抗して作ったトラックであり、それはパーティーサウンドでなくてもヒップホップは成立することを証明したばかりでなく、スピリチュアルという概念まで生み出したのである。元々UKには音楽に関して,他の欧米諸国とは違う独自の嗜好があり、植民地であったジャマイカやインド,バングラデッシュからスパイスなどとともにレゲエやアジア音楽を輸入し移民を受け入れきたことで,それぞれの本国とも違ったグローバル,かつ自由なサウンドを生み出してきた。
日本やフランスなどが昔、自国の文化保存ばかりに力を入れた結果世界マーケットから取り残されたのとは対照的にUKは常に新しいモノを取り入れていくといった姿勢がABSTRACTを生んだのである。最近では、さらに進化しジャズのコード感やアンビエントなどの要素を取り入れているものも多い。もちろん、ABSTRACTも完全打ちこみ音楽の世界であるが、ここ最近そういった音楽を生で演奏しようと集団も増え、またポップスのトラックに使うクリエーター達も増えてきたのである。ここまで、HIPHOPのリズム主体の打ちこみ音楽、HIPHOPの進化系ABSTRACTなどを解析してきたが、次にBREAKBEATSを解析したいと思う。
第三節 BREAKBEATS
BREAKBEATSとは、語源的にはR&BのRYHME&BREAKBEATSの後半部分であり、ブレイクスとも呼ばれるのだが、元々は音楽制作面での用語である。BREAKBEATSもまたサンプラーを用い音楽を制作するのだが、HIPHOP等との違いとしては、音楽を聴いてもわかるようにまず、BPMの違いとループのパターンである。
具体的にはHIPHOP等よりもリズムを発展させた形がおおく攻撃的な印象をうける。 ループのパターンに関して言うと、ここが重要な部分であり気に入ったフレーズなどの「パターンの並べ替え」こそがBREAKBEATSのキモとも言える部分である。デジタル処理により、サンプリングしたフレーズの1小節をいくつにも細かく区切ることにより分割し、バラバラにする。そして分割した各々を任意の順序で組替えることが出来るのである。この作業の部分が、BREAKBEATSと呼ばれる理由である。以上のような過程を経て、オリジナルのフレーズはもはや原型をほとんど留めず、新しいリズムに生まれ変わるのである。
以前は技術の問題によりサンプリングの精度が低く、性能の部分で問題だったのだが、今ではリズム以外の部分でも積極的に使用されており、サンプラーが使われていないものは無いほど普及している。つまり、BREAKBEATSとは制作上の手法、またそれを用いた音楽の総称であり、HIPHOPもいわばBREAKBEATSなのである。 ただしBREAKBEATSはBPMが非常にはやく、同じブレイクビーツミュージックであるヒップホップと比較すると、ヒップホップが80~100あたりであるのに対し、ドラムンベースは150~170あたりに落ち着いている。ちなみにビッグビートはその間くらいのものが多い。ではテンポが速ければそれでBREAKBEATSになるのかというとそうではない。ギター、シンセ、ベース等のほかの楽器などがリズムに対して比較的ゆったりとしているものが多いといった点が特徴である。また、BREAKBEATSもUKの流れによるものであり、独自性が非常に高いこともわかる。このように、HIPHOP、ABSTRACT、BREAKBEATS等の打ちこみ音楽を解析してきたのだが、これからそのような打ちこみ音楽はどのような形で進歩していくのだろうかといった視点を述べていこうと思う。
【第三章 】これからの打ちこみ音楽
第一節 ジャンルを超えた打ちこみ音楽
第二章でも説明してきたとおり、技術の進歩によって生まれた機材から音楽を作り出すというスタイルを編み出し、またそのことによってさまざまな音楽が生まれてきた事がわかる。まさにこれからの打ちこみとはジャンルを超えた打ちこみをすることによって新たな音楽が生まれるということなのである。
第二節 打ちこみ音楽と著作権
打ちこみ音楽とは、PC等の機材を使って音楽を制作するということを前述したが、特にHIPHOPのようにサンプラー等を使って音楽を制作する場合、その元となる曲の著作権があることを忘れてはならない。デジタル化が進み誰でも簡単にコピーすることができるようになった。またネットワーク環境の変化によりそのコピーしたものをアップロードするといった動きが見られ著作権に関心が集まるようになった。極論言わば、人の物を使い利益をあげる行為なので違法には違いないのだがその境界線はあくまでも微妙なラインなのでこれからの個人の著作権に対する考え方に期待するしかないのである。
第三節 打ちこみ音楽の課題と将来像
打ちこみ音楽の課題は大きく分けて二つある。第二節で前述したような音楽に対する考え方の著作権と音楽を制作する上でのジャンルと生音へのこだわりである。今の時代音楽をジャンル分けするならば正しくは生音と機械音なのではないだろうか?がしかし、その二つの融合こそが必要なのもまた事実である。
打ちこみの音楽はデジタルであることからインテンポのクウォーツ制度のタイミングという正確なRHYTHMになってしまうため、生音でのグルーブがかけてしまう。わざと微妙にずらしてグルーブが出ているように見せかける動作も最近ではできるような機材も増えてきたのも事実であるが、やはりどうもいまいちな部分が残ってしまうのも事実で、その辺の作業が今後の課題であろう。だがこれからの打ちこみ音楽に関して、まだまだ期待できる部分も多く、どんな音楽が生まれてくるのかが楽しみであり、打ちこみといったジャンルが増えてくるだろう。