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(テキスト:呉 成徹)

「サルヴァドールのカーニヴァル」

 バイーア州の州都サルヴァドールはリオよりも北にある大西洋の港町。
 ポルトガル人の侵略者が植民地政府を置いたのがこの地でもあり、この港町を玄関口に、300年にもわたり、おびただしい数のアフリカ人奴隷を連れてきたのである。

 バイーア州ではアフリカ系住民の人口がブラジルの主要都市のなかで1番多く、200万人強の人口のうち、約80%がアフリカ系もしくはムラート(白人と黒人の混血)である。

 サルヴァドールのカーニヴァルは期間中(金曜日から火曜日の5日間)昼過ぎから翌朝まで連日行われる。音楽スタイルは多種多様だが、基本はストリートミュージックであり、リオのカーニヴァルの1年の総決算で、新しい方向性はほとんど無いのとは対照的に、サルヴァドールのカーニヴァルは町中のストリートで生まれた音楽を発表する舞台として、常に音楽的に進化している所である。


「アフォシェー」

 アフォシェーとは一見、ギャグで使われそうな名前だがそうではなく、カンドンブレーの儀式(カンドンブレーとは、アフリカ伝来の宗教)に使う音楽、歌、リズム、ダンス、パーカッションを、町中でパレードする事を言い、ここサルヴァドールで生まれた物である。
 このカンドンブレーで主に使われる楽器は、コンガのような形をした大中小3つのアタバキ、低音を出すアゴゴの一種のゴンゲー、ほかにアフォシェーと呼ばれているシェケレ、などである。

 1885年、サルヴァドールのカーニヴァルに初めて参加したアフォシェーグループはエンバイシャーダ・アフリカーナで、その翌年から色々なグループが生まれた。しかし、当時上流階級中心の政治家、警察がアフォシェーグループの参加を1918年まで禁止した。
さらにそれ以降30年に渡りサルヴァドールの黒人たちはパレードの通りに出るだけでも、警察からの弾圧を強いられる事となるのである。

 こういった状態を変えたのが1948年に登場した、アフォシェーグループ、フィーリョス・ヂ・ガンジーと言うグループで、インドの平和主義者、マハトマ・ガンジーをグループの顔にし、イメージと非暴力を提唱することで、カーニヴァルの参加と、警察の干渉なく、観客に暖かく迎えられることとなった。


「ブロコ・アフロ」

 ブロコ・アフロとはサルヴァドールで活躍するアフロ・ブラジル系のカーニヴァルの演奏グループの事である。

 1974年、イレ・アイェと言う名前の最初のグループが結成された。メンバーは肌の色が特に黒い黒人に限定して、白人や茶色い肌の人を締め出した。パレードではスルドやヘピニキでアフロ・ブラジルのリズムを叩き、ヴォーカル、ドラム、パーカッションのみの荒削りなサウンドで海岸へとパレードを繰り広げた。

 そんなイレ・アイェに触発されてブロコ・アフロが次々と誕生した。
 これらのカーニヴァル集団の存在を広く伝えたのが、ジルベルト・ジル、カエターノ・ヴェローゾ、モライス・モレイラといった大物アーティストがアルバムで、ブロコ・アフロの各グループの曲を取り上げた事による絶大な功績も大きい。

 1970年代末から80年代にかけて、オロドゥンやアラ・ケトゥなどのブロコ・アフロが続々結成された。中でもオロドゥンが新しい音楽、サンバとレゲエをミックスして出来上がった”サンバ・ヘギ”の誕生である。

 サンバ・ヘギはスルドの低音のベースにカイシャのハイピッチなアクセントをつける。そこにヘピニキがレゲエのリズムを奏でる、さらにマスターパーカッショニスト2人がティンバレスでパーカッション隊を導き出す。

 この新スタイルの音楽、サンバ・へギはたちまち他のブロコ・アフロに浸透、さらに有名なミュージシャンらによって演奏され、大ヒットをとばした。80年代に出来た新たなミュージックの流れは、90年代になりアシェー・ミュージックと名を変えることとなる。

 アシェー・ミュージックとは、サンバ・へギを始め、サンバ、イジェシャー、フレーヴォ、これにメレンゲやサルサやソカがミックスされたものである。
代表的なアーティストは、カルリーニョス・ブラウン率いるチンバラーダで、カーニヴァルに初参加後、アルバムからヒット曲を連発した。

 チンバラーダの特徴として、チンバウ(アタバーキ起源の打楽器)を使用し、スルドやパンデイロ、その他パーカッションでアシェー・ミュージックを演奏する。
 そんなサルヴァドールの音楽をMPBアーティストがこぞって演奏し、大ヒットを飛ばしているのは、この地のカーニヴァルがブラジルの新しい音楽の発信地だからと言えるのではないでしょうか。ここでアシェー・ミュージックで使用する楽器達を紹介しよう。

・スルド 深胴の大太鼓で、低音部を担当する楽器。右手に太いマレットを持ち左手でミュートなどをする。バイーアのチームでは、両方にマレットを持って演奏することもある。

・ヘピニキ 深胴の小太鼓、スルドと同じように右手にスティックを持ち、左手でミュートやスラップをするが、2本のスティックで演奏したりもする楽器、複雑なポリリズムやカウンターを演奏する。

・チンバウ キューバのコンガの様な形をした楽器で、先祖はアタバキになる、パレードしやすい様に軽量化がされている物。兄弟楽器としてタンタン等がある。

研究生の宮武さん
持っている楽器はヘピニキ
 その他にリオのカーニバルで使われている楽器、シェーカー、アゴゴ、タンボリン、カイシャ、等も使用します。 現在、バイーアのカーニヴァルも年々、規模と動員数を拡大し、音楽的にも、民衆のお祭りとしても、リオを圧倒しているのではないでしょうか。
毎年TVなどでカーニヴァルの模様が放映されますが、サルヴァドールとリオ、注意して見比べてみて下さい。違いがわかる人はもうブラジル通です。

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