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(テキスト:石川 武)

今月の偉人さん  エド・シグペン


ED THIGPEN

(エド・シグペン)

 
 本名 エドモンド・レオナルド・シグペン。1930年生まれ。ブラシの神様、ジャズの生ける伝説と呼ばれている。51年クーティー・ウィリアムス楽団プロ入りした後、オスカー・ピーターソン・トリオに参加。 72年以降はデンマークに居を移し活躍。

スイング感溢れるドラミングを聴こう。
「Sound Of The Trio」
Oscar Peterson
「Blues For Harvey」
Johnny Griffin

「キューバ人にはなれないぞ!」
  さて、いよいよ重鎮の登場です。テーマからして重いですよね。心して書かせてもらいます。

 エドさんに会ったのはもう10年以上前のこと。エドさんは演奏での来日のついでに、エドさんの事務所のパーカッショニストが書いた本のPRと日本での状況をリサーチにいらっしゃったのでした。
 コマキ楽器の社長でもある小牧氏と仲がよく、エドさんは

「日本のパーカッションの状況を話せる人はおらんかね?」

と小牧氏に聞かれたのですが、そこで小牧氏から連絡があり「石川君、ちょっときてはなししてくれないかなあ?」と。そこで私の登場となるわけです。

 小牧氏とエドさんと私の3人はすき焼きを食べに言ったのでした。そこで話が始まりました。



「日本のパーカッション、特にこのような教則本の状況はどんなかんじかね?」

とエド氏。

「そうですね、いくつか本はありますけど、僕も今は、より詳しい本を探しているさいちゅうでして・・」

と私。

「そうかあ、じゃあこんな本もうれるかなあ?率直な意見を聞かせてくれたまえ!!」

といって渡されたのが、コペンハーゲンの音大の教授が書いた、ラテン・パーカッションの本でした。同時にビデオも見せてもらったんですが、とてもわかりやすく、内容は申し分ない感じでした。
 ただ、忌憚の無い意見をということだったので、



「そうですねえ、内容はすばらしいんですが、日本人の場合、たとえばラテンの勉強をしたいと思って輸入書を探すとしたら、まずはキューバの本や、ニューヨーク(USA)の本を探しちゃうんじゃないかな?コペンハーゲンって言ってもピンとこないかもしれないですね。」



といってしまいました。すると

「でもこいつはちゃんとキューバで勉強してきてるし、まあラテン民族ではないけど内容的には問題ないぞ」

とおっしゃいます。


「でも日本人って変なところで形式を重んじたりするし、変にオリジナルにこだわったりしますからねえ。キューバを学ぶにはキューバのものってなっちゃうんですよ!」


と、さらに追い討ちをかけちゃったりしちゃったんです。するとさらに



「じゃあなにかい?君はキューバ人に習うとキューバ人になれるとでもいうのかい?あくまで参考にするだけで、日本人に変わりはないんだぜ!!だったらその要素を誰から学ぼうが変わりはないだろう!!!」


「はあ、たしかに・・・・」



 当時の会話で強烈に覚えているのはこんなことぐらいなんですが、このとき私は色々なことを学びました。
 結果的にこの話をした後に私も教則本を出したんですが、なにか自信がついたというか、僕が僕のことを表現するのに誰はばかることは無いんだと。なにかそれまではラテンを勉強することを、自分の表現が未熟なことの隠れ蓑にしていたような気がしたんです。
 とにかくその後色々な意味で日本人ということを認識することになった最初の出来事でした。
 
今月の一言
「キューバ人にはなれんぞ」
"You can`t be a Cuban percussionist!"

解釈・・・その通りだ。そしてそれが原点なのだ!
 

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