「ボカ〜ン!」はリズケンがお贈りするエンターテイメント・マガジンです。
リズケン・スタッフや外部ライターの方による傑作をお楽しみください!
(テキスト:石川 武)
今月の偉人さん
テリ・リン・キャリントン
Terri Lyne Carrington
(テリ・リン・キャリントン)
素晴らしいドラムプレイを堪能しよう。
「JAZZ IS SPIRIT」
Terri Lyne Carrington
「REAL LIFE STORY」
Terri Lyne Carrington
豚肉
テリに会ったのもまたヤマハ・ビッグ・ドラマーズ・キャンプ。考えてみると贅沢なキャンプだったですねぇ。色々な一流ドラマーと3泊4日べったり一緒に生活できるんですから。普段見られない面もちらほらみえたり、あの人こんな感じだったの?何てこともしばしばあります。もちろんいい意味でですよ!
テリは私の中ではジャズドラム界の天才少女というのが第一印象。十代中盤でバークリーに入り、優秀な成績であっという間に卒業してしまったということを聞いて、こりゃもう次元が違うわ、と思っておりました。
キャンプが始まり初日、講師とスタッフのみの準備が始まって、テリの演奏のリハーサルタイムです。日本人講師達もテリがどんなドラミングを披露してくれるのか、ちょっとわくわくしながら周りで見ていました。するとなんとなくサウンドチェックをしていたテリが、ちょっと厳しい顔で、
「皆を外に出して、集中できないわ」
とおっしゃいます。
「そりゃあすいませんでした」ってなことで講師陣はロビーで待機することに。やっぱり天才は繊細なんだなぁなどと考えておりました。打ち合わせの時にも口数は少ないし、気難しいのかなあ、などと思いつつ夕食の時間になったんです。
僕の席から2つ3つ離れた所に座っていたテリは回りに英語を話す人がいないのを見ると、恥ずかしそうにこっちを見て「タケシ!」と呼ぶではありませんか。「どうしたの?」と聞くと
「この中に豚肉入ってる?」
とお聞きになります。
「うん、これが多分豚肉」
「取って取って!」
「豚肉だめなの?」
「絶対だめ!!」
「タケシは食べられるんでしょ?」とテリ。
「大好き」と僕。
「これからいつも豚肉チェックして?」とテリ。
「いいよ」と僕。
ということで僕はテリの豚肉チェック係に任命されたのでした。これがきっかけでテリと食事時にいろいろはなすことができたんです。
そして話しているうちにわかった事は、初日の厳しい感じは、意外な所に原因があったということ。もちろん私の推測ではありますが、考えてみるとテリは当時の講師陣の中では最年少だったんですね。(多分)しかも周りは男ばかり。そういう意味で極度に緊張していたようです。
仲良くなったテリとは最終日のテリのセミナーで一緒に演奏もできました。テリが講師の皆とセッションしたいと言い出したんです。テリはそれぞれの講師の得意なリズムでインプロビゼーションしてくれました。ここでもすごかったのは、皆こんなリズムでやろう、ということを決めたぐらいで、そのまま演奏に入っちゃうんです。
ところが行き先が見えるんだな、これが。リズムの懐も広いし、まったく問題なく演奏できちゃう。導かれちゃう感じです。
最後に、やはり天才だ、と痛感しました。テクニックとか何とかじゃなく、そのひとのオーラに導かれる感じでした。
今月の一言
「Is this the pork?」
解釈・・・「これ、豚肉?」 天才もひとの子だあ!
別解・・・人の子なら天才になれるかも??!!
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