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(テキスト:山村牧人)
 私、山村は「西新井食い道楽」から一新、サイトリニューアルに合わせて新シリーズをスタートします。その名も「ライドバカ一代」!!!

 西新井の食い物ネタが無くなった食い物に騒ぐのに飽きた家で旨いものを食っているので外に出なくなった、などという噂はすべて事実無根。まぁ、そろそろ足立区食い道楽とか、浅草食い道楽とか、ドラマー食べ歩きとかにしようかとは思っていたりもしましたが(笑)

 私事ですが、最近シンバルにハマッております。それもライド・シンバル。実は今まで大して気にしたこともなかったのですが、数年前にパイステ・シンバルのお仕事をさせていただいてから、いろいろとシンバルと出会い、余計な(笑)知識がついてしまい、どうにも演奏中にシンバルのピッチやらサスティンやらピング音とかが気になり始めたのですね。まぁ詳しくなってしまったことで、皮肉にもいろいろ気がついてしまうようになってしまった。

 フュージョンとかポップスとかやっていたりする分には、ジルジャンとかパイステとか、そういう一流ブランドを使っている範囲では、当然クオリティが高いですから、まぁ大して困ることも無かったのです。が、ちょっとジャズっぽいものをやろうとか、一頃流行った「アンプラグド」ものっちゅうか、要するにアコギとかアコピとかっていう雰囲気になった時に結構困ってきました。そもそも私は小さい音で叩くのは苦手ではないほうではありましたが、一緒にバンドをやっていたギタリストに「シンバルが高いほうでキンキンしすぎるのと違いますか」などと言われ、ライブを観に来たリズケンのパーカッショニストに「シンバルがうるさい」などと言われ「う〜ん」と考えるようになりました。

 シンバルには、確かにいろいろな種類があって、ラウド・サウンドに向いているだの、ビート系に向いているだの、アコースティックに向いているだのと、サウンドのキャラクター、ボリュームなど様々です。しかし、ジャズだからといって、みんながみんな同じサウンドではないし、ロックだからと言ってみんなメタリックなサウンド、というわけでも無い。だから、まぁいろいろ言われても、それは腕の問題、物は使いようだと考えてもおりました。

 しか〜し、ここで出会いがありました。とある楽器屋で手に入れた中古のシンバル。これが、実に自分にとって素晴らしいサウンドでありました。ちょうどチックコリアのアルバムでジェフ・バラードのドラミング、シンバル・サウンドの美しさに惹かれ始めた頃で、叩き方によって音色が心地よく変わり、サスティンはほどよく、甘くもあり、張りもあり、明快でもあり、深くもあり、小さくまとまったり、大きく暴れたりと、叩くことが実に楽しいシンバルでした。シンバルスタンドにセッティングして、そのシンバルだけでずっと叩いていても飽きなかったほどです。

 残念ながら、そのシンバルはステージなどで使うにはちょっと柔らかすぎるのですが、そのシンバルを叩きながら「最近、シンバルの音を聴いて感動しなかったが、それはひょっとしたら...」と、美味しんぼの山岡士郎のように変わりゆく時代の流れを感じたのでした。そして、なぜ人が、ヴィンテージ・サウンドに魅せられ、オールドの楽器を使っているのか、その答えが少し見えたようでした。

 そんなこんなで、シンバルというものの存在が頭の中で大きくなるにつれ、オークションで3000円そこそこで落札したシンバルが実によい音であったり、どこそこの楽器屋で叩いたナントカがよかったとか、ジェフ・バラードにインタビューしたときにシンバルについて根ほり葉ほり聞いてみたり、そんなことがかなり頻繁に行われるようになったのでした。しかし、ライド・シンバルという物はじつに奥が深い。重くなく、軽くなく、甘すぎず、尖りすぎず、サスティンは短すぎず長すぎず、ピッチは高すぎず低すぎず、ボウとカップのバランスが良く、タッチで音色が柔軟に変化するという、実に都合のよいものが求められるのであります。

 こんなことを考えていたら、リズケン講師の染川君が名言を残してくれました。「そうなんすよ、大体ね、使っているシンバルにそれほど不満はなかったりするんですけど、演奏しながら、もうちょっとあぁだったらとか、もう少しこんな風にもなってくれたら、なんて思ったりして、いろんなシンバル使ってみても、結局はどこかに小さなイライラが残ってるんですよ。それが解消するというのは、実はもうあり得ないのかも知れないとすら思っちゃいますよね」

小さなイライラ

 これを聞いて、思わず笑ってしまった。実によい言葉ではないか。ちいさなイライラ。青春期の、つきあっている男女の気持のようでもあり、まぁうまいことを言うものだと感心してしまったのだ。結局、大きく不満は無いのである。しかし、その残された数パーセントの部分で、納得いくサウンドとは何か、そして、自分の好みとは、自分の演奏したい世界とはなんなのか、その答えがこのシンバルに対する小さなイライラに隠されているような気がしてならないのだ。デニチェンのようになりたい、ウエックルのようになりたい、と思えば、もちろん個体差はあるが、同じモデルのシンバルを使えばよいだろう。なによりも、そのブランドイメージで、小さなイライラは、自分の腕の問題にすり替わっていくだろう。

 この文章を読んで「アホやなぁ」と思う人がいるかもしれない。というかいて欲しいくらい。だって自分でもクダランなぁと思ったりする。しかしだ、このアホなことに真剣になって何枚も何枚もシンバルを叩き比べていると、実にわかったつもりになっていたことに気付かされたりする。また、リズケンのスタジオでこんなことをやってみたりすると、実に多くのドラマーが「やっぱコレダ!っていうシンバルって無いんすよねぇ」なんて言っていたりする。

 わはは、実に楽しいではないか。答えのない世界。ふははは。ということで、今回はこれくらいにして、次回から、ライドについてのなにやかにやを書いていこうと思うのだ。え?食い道楽の方がまだ良かったって?まぁね、最初に違和感があるものが、後になって欠かせないものになる、なんてこともあるでしょ(笑)


文中のライドとは関係ありません。

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