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・楽器オモテウラ話_5月号
第3章 楽器の構造と音質(音色)の関係 その2 〜シンバル編 〜

 前回までは、主にドラムシェルに関する構造とサウンドの関係を探ってきました。今回はドラムセットにおけるもう一つの顔「シンバル」について考えてみたいと思います。

 一言にシンバルといっても、色々なメーカーから様々な形状、素材を使った数多くのモデルが発売されており本当にドラマー泣かせの楽器です。しかも楽器の性質上1枚1枚がそれぞれの表情を持っているため、なかなかお気に入りのシンバルに出会えないドラマーも多いのではないでしょうか。
 実際には自分の耳でサウンドをチェックして良いものを選ぶのが一番の近道なのですが、ここではあえてシンバルの物理的特性とサウンドの傾向の関係を探ってみます。

 シンバルの構造といっても、ただ単に1枚の金属板を加工して製造される物ですからそんなに複雑な要素は有りません。サウンドの複雑さは構造よりも、その製造工程に有るわけで、ドラムのようにあれやこれや関連性を考える必要はないでしょう。
 シンバルの構造上の物理的特性を表わすキーワードとしては、大きさ、厚さ、形状、表面加工、素材等が上げられます。では、順を追って見ていきましょう。


§1,シンバルの大きさとサウンドの関係


 これは説明しなくても分かっている人が多い事柄ですね。
 同じ厚みで大きさの異なるシンバルが有ったとします。1枚は大きく、もう1枚は小さいシンバルです。この2枚のシンバルにはどのような違いが現れるでしょう。

 まず、最初に思い浮かぶのがピッチの違いでしょう。大きいシンバルは当然ピッチは低く、小さいシンバルはピッチが高くなります。
 また、大きいシンバルは振動体が大きいという見方も出来ますので、サウンドを放射する面積が広くなり音量が上がり、広がりを持った音になります。更に振動そのものの持続時間が長く、余韻が長いサウンドになります。


§2,シンバルの厚みとサウンドの関係

 これも§1同様常識となっている特性です。
 同じ大きさで厚みの異なる2枚のシンバルが有ったとします。1枚は厚く、もう1枚は薄いシンバルです。

 もうおわかりだと思いますが、シンバルは厚みがあるほうがピッチが高くなり、サウンドのフォーカスもはっきりしてきます。逆に薄いものはピッチが低くフルボディな鳴りの柔らかいサウンドになるはずです。
 また、余韻にも大きく影響し、厚ければ長く、薄ければ短くなります。
 
§3,シンバルの形状とサウンドの関係

下図をご覧ください。

 これは一般的なシンバルの形状と、各部の名称を示したものです。各部の形状がどのようにサウンドに影響してくるのか見てみましょう。


1,BELL/ベル(カップ)

 シンバル中央の膨らんだ部分。ここのサイズが大きいとボリュームが上がり、倍音の出方も豊かになります。シンバルが自分で持っているアンプと考えても良いかもしれません。
2,BOW/ボウ(図1のライドエリア+クラッシュエリア=シンバルのベルを除いた部分)
その名のとおり、この部分は1部のシンバルを除けばその大半が弓状に湾曲しています。この部分もカップ同様倍音やボリュームの出方に影響を及ぼします。概して、湾曲が強ければ倍音が豊かで大きなサウンドが得られるようです。
反対にフラットに近ければ、タイトでドライなサウンドになっていきます。


§4 表面加工

1、音溝

 シンバルの表面には音溝と呼ばれる溝が刻まれている(レイジング加工)ものがその大半を占めます。この溝が有ると無しでは、シンバルサウンドの印象が大きく変わってきます。溝の深さや量などによっても微妙に違ってくるのですが、この音溝がシンバルの持つ複雑な倍音を発生させている大きな原因のひとつになっています。


2,ハンマリング

 シンバルは値段の高い低いに関わらず、すべてこの工程を経て作られます。その手法によりマシンハンマリング、ハンドハンマリングの2種類に大別され、前者は明るくタイトなサウンド、後者はダークで深みのあるサウンドになると言われています。
 この工程によりシンバルは金属板から楽器へと脱皮すると言っても過言ではなく、ハンマリングの量、深さ、大きさ等によりサウンドのピッチ、倍音構成、広がり等がコントロールされていきます。
 概して、それぞれの工程が多く(大きく)なれば高域の倍音が押さえられダークで深みのあるサウンドに変化するようです。近年、ハンドハンマリングの技法もコンピュータの進化に伴いある程度の部分までマシンハンマリングによって再現出来るようになってきているようです。


3,バフ(磨き)処理

 シンバルの中には、表面を磨き込み光沢処理を施してあるものが有ります。一般的にはブリリアント加工と言ったほうが通じますね。このブリリアント加工がシンバルのサウンドに与える影響も無視できません。
 ブリリアントという言葉通り表面は非常に光沢のある仕上がりになっていますが、サウンドの方も同様につやのあるきらびやかな感じになるようです。また、同一モデルのノーマル(トラディショナル)フィニッシュの物と比べるとウェイトが若干薄くなり、レスポンスも向上するようです。
 なぜ、サウンドがきらびやかに変化するのかは解りませんが、一応頭の片隅にでもインプットしておいて損はないでしょう。



§5素材

1、合金の種類

 シンバルの素材はその価格によって使用されている合金が違います。
 低価格帯のモデルにはブラス(真鋳)、ニッケル等が用いられ、高価格帯のモデルにはエキストラ・ハード・ブロンズが使用されています。
 ブロンズもメーカーによって合金の配合が微妙に異なりますが、有名な物としてはジルジャンに代表されるトルコ系シンバルが使用しているB20ブロンズ(銅80%+錫20%+若干の銀の合金)、パイステが2002シリーズ等で使用しているB8ブロンズ(銅92%+錫8%)が挙げられます。当然、錫の含有量が多ければ硬質なサウンドになります。

2、素材の製法

 既にご存知の方も多いと思いますが、シンバルの元になるブロンズシートの製造方法には大きく分けると2種類有ります。キャストブロンズと呼ばれるシンバル1枚分のインゴット(固まり)を伸ばしてシートを作る方法と、シートブロンズと呼ばれる予めブロンズをロール状に作っておく方法です。
 キャストブロンズの方が金属組織は複雑になり素材としては硬くなります。また、倍音構成や広がり方も複雑になり、ドラムセット全体を包み込むようなサウンドになります。
 シートブロンズは予め大量に作られているというだけで、もとは同じ鋳造されたブロンズですから金属組織が単純で弱いと言うわけでは有りません。キャストブロンズと比較すれば素材としては柔らかくなり、倍音の出方や広がりもストレートになり、非常にクリアできらびやかで音抜けの良いサウンドになります。

 ジルジャン社やセイビアン社では、製造コストの安いこの素材を使用し安価なシリーズを製造していますが、同じシートブロンズを使用していながらパイステは、高い技術力と複雑な製造工程によりクォリティの高いシンバルを作り続けています。

 どうもシートブロンズと言うと安物イメージや耐久性に劣るというイメージが付きまとうようですが、決してどちらが良いとか、どちらが丈夫とか言うことは有りません。ドラマー個々の好みや、奏法に合う合わないというところで判断して下さい。


§6まとめ

 これまで、シンバルのサウンドに影響を与えるであろう要素を解説してきました。
 しかし、冒頭にも書いたとおり長年の経験や勘に頼った部分を残すシンバルの製造方法により、同じモデルであっても1枚1枚のサウンドは全く違う表情を持つことになります。
 理論的には同じ感じになるはずでも、全く予想が付かないことも多々有るのです。したがって、今回解説した事柄はあくまで参考と捉えて頂き、自分自身の感覚、好みでシンバルの選択をして下さい。何も知らないよりは何らかの手がかりとなるはずです。

次回はシンバルやドラムセットのサウンドを大きく左右するハードウェアの特性に付いて考えてみたいと思います。

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