・楽器オモテウラ話_2002/6月号 |
第4章 ハードウェアの選択と楽器サウンドの因果関係
これまでドラム、シンバルといった、いわゆる楽器本体について色々と考えてきました。しかし、ドラムセットにはもう一つ無くてはならないものが有ります。そうです、楽器を支え、固定しているハードウェアです。これが無くてはセットが組めません。
ハードウェアと言うと一般的には「道具」として認識されている場合が多いと思います。でも良く考えてみて下さい。楽器を支えているということは、楽器に接触していると言うことであり、楽器とともに振動し、鳴っていると言うことなのです。
「スタンドも楽器の一部だよ。」
という声を時々耳にしますが、概念として認識している人はいても、実感している人となるとごく僅かなのではないでしょうか。私もここ数年の間にかなりショックを受ける体験をし、ハードウェアの重要性の高さを改めて考えさせられました。
今回は、このハードウェアについて考えてみたいと思います。
§1 ドラマーがハードウェアに求める必要条件
ドラムセットに関わるハードウェアは、楽器を支え 固定するための物と、楽器を演奏するために必要な道具の2種類に大別できます。
前者は、シンバルスタンドやスネアスタンド、タムホルダー等にあたり、後者はキックペダルやHHスタンドのことを指します。
使用目的は微妙に異なりますが、奏者が両者に共通して要求する良いハードウェアの条件として以下の項目が挙げられると思います。
1、操作性、安定性の高さ
2、耐久性の高さ&修理のしやすさ
3、楽器サウンドをより良い方向に生かすことが出来る
では、これら項目について色々考えて見ましょう。
1、操作性&安定性
楽器をセッティングし演奏するためには、使いやすいハードウェアを選ぶことは当然です。
自分が「こうしたい!」と思ったセッティングを実現できないハードウェアや、自分の好みの動きをしてくれないペダルは選択肢には含めませんよね。また、自分の演奏スタイルを支えきれないハードウェアもお話になりません。
と言うわけで、セッティングのしやすさを含めた扱いやすさ、自分の意のままに操ることが出来るハードウェアが自分自身にとっての最良の物と言うことが出来るわけです。
操作性に付いては実際に触ってみないと分からないことがたくさん有りますので、購入の際は必ず「楽器店で確かめてから」が基本です。
2、耐久性
楽器をしっかり固定し、ハードなプレイを支えるとなるとそれなりの強度が必要になってきます。演奏中に故障したり、楽器を支えきれなくなったり、演奏そのものが出来なくなったりしたら問題です。
耐久性に関しては、物を見ただけではなかなか判断できないことでは有りますが、非常に重要なポイントですから、慎重に検討する必要が有ります。また、万が一壊れてしまった場合でも、修理が簡単に出来る物を選んでおけば、いざと言う時に困らないで済むことは言うまでも有りません。
3、サウンド
皆さんの中には、自分の楽器を固定するスタンドを変えたら音が変わってしまったと言う経験を持っている人もかなりいることでしょう(この現象は特にシンバルで顕著に現れます)。
冒頭でも述べたとおり、ハードウェアは楽器本体と直接、接触しているわけですから当然サウンドに与える影響は少なくありません。
単純に考えれば、楽器が本来持っているサウンドを損なうこと無く100%引き出すことが出来るものが良いハードウェアと言うことになりますが、逆に、ハードウェアの特性を利用して楽器のサウンドを自分好みの方向に持って行くことが出来るのであれば、これを利用しない手は有りません。
どちらにしてもスタンドで音が変わると言うことを念頭において、先の2つの条件と合わせてハードウェアを選択していくことが非常に大切になってきます。
また、楽器を鳴らすことで余分なノイズが出ないと言うことも非常に大切です。特にレコーディングや静かな曲を演奏する際、ノイズが発生してしまっては問題です。気を付けましょう。 |
§2 ハードウェアとサウンドの関係
ハードウェアの善し悪しを判断するための重要なポイントは前セクションで述べました。
ここでは、各種ハードウェアの特性とサウンドに与える影響に付いて具体的に考えていきたいと思います。
1、ドラム椅子(スローン、ストゥール)
「音との関係を探ると言っておいていきなり関係ないじゃん!」
と言わないで下さい。ドラムセットのハードウェアの中で1番大事な物は椅子なんではないかと私は思っております。
1部の特殊な例を除き、ほとんどのドラマーが演奏をはじめようとした際1番最初に触れる部分であり、最後まで触れている部分でも有ります。
残念ながら、椅子の重要性に付いて気付いている人は少ないのではないでしょうか(セットを買う時、真っ先に予算が削られていってしまうことが多いのです)。
しかし、良く考えて下さい、長時間にわたる、しかもかなりハードなドラマーの動きを支えているんです。椅子がしっかりしていなければ良い演奏なんて出来るはずが有りません。安定感の無いものでは、安定したリズムもしっかりとしたサウンドも叩けません。
しっかりとした剛性、好ましい座り心地はドラマーの過激な動きを支え、演奏に集中できる環境を作り出すのです。
2、ペダル
おそらくドラマーが最初に手にするハードウェアであり、いつまで経っても「これだっ!」と言うものに出会えない物です。手におけるスティックと同様に奏者の好み、奏法によって選択基準は大きく変わってきます。
最近は調節機能の充実した高性能ペダルが多数発売されていますが、自分の好みがはっきりしていれば、あまり欲張った機能は必要ありません。とにかくたくさんのペダルを踏んで、その感覚の違いを把握することが大切です。ここで言った「感覚の違い」がペダルの持つ個性であり、物理的特性にもなるのです。
皆さんの興味は、踏んで動かす物であることから、ペダルの上下運動をビーターの回転運動に変換する駆動部に集中すると思いますのでこの部分に関して考えてみたいと思います。
よく、ペダルは軽いほうが良いと言う人がいますが、正しくは奏者の感覚に近いものと言ったほうが良いでしょう。音を出したいところに正確に踏めると言えば分かりやすいでしょうか?この自分の感覚に近い、よりダイレクトな踏み心地を得るためにメーカー各社は駆動部分にたくさんの工夫を凝らしているわけです。現在市販されているペダルの多くは、以下に述べる駆動方式に大別できます。
(1)真円形状のスプロケット(カム)をチェーン(ベルト)で引っ張る
(2)偏心(楕円形)のスプロケット(カム)をチェーン(ベルト)で引っ張る
(3)シャフトで直接引っ張る
(1)のタイプは、回転半径が一定で、支点の移動も発生しないためペダルとしてはもっとも素直で安定したアクションが得られます。踏み心地は梃子の原理そのままに、アクションの軽さは回転半径に比例し、パワー感は反比例します。
(2)のタイプは、現在もっとも人気のあるタイプです。(1)の回転半径の大小の要素を兼ね備えた感じになり、始動時は半径が大きく、踏み込むにしたがって小さくなっていきます。したがって始動時のアクションは軽く、踏み込むにしたがってスピードが上がりパワーが大きくなります。但し、支点の位置が(偏心の度合いにもよるが)踏み込みと共に移動する為、アクションとしては若干癖が有ることも確かです。偏心度合いが少なければ(1)に、極端になれば(3)方式に近づきます。
(3)はラディックのスピードキングに見られる方式です。この方式は、回転半径は一定なのですが踏み込みと同時に支点も一緒に移動することからペダルアクションとしてはかなり直線的な動きになります。感覚的にはボードがふわふわした感じになり、かなりの癖が有ると言って良いでしょう。このタイプに慣れてしまったら他のタイプには戻れないかもしれません。スピードは有りますが、パワー面では劣るケースが多いようです。 |
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駆動方式のほかにも、素材の剛性、重量などサウンドに与える影響が有る要素は有りますが、この辺はまた後日.....。 |
3, シンバルスタンド&スネアスタンド
シンバルスタンドを変えると音が変わってしまったという経験はかなりたくさんの人がしている事と思います。これこそが、スタンドも楽器の一部であるといういい例です。
スタンドは、その大多数がパイプをメインに作られています。パイプであるという事は、内部は空洞であり、必要、不必要に関わらず一種の共鳴管の役目をしてしまうのです。
ここで、スタンドが楽器のサウンドを100%引き出すために必要な要素を挙げてみます。
(1)不必要な共鳴、共振が無い(楽器の音を吸収しない)
(2)楽器サウンドを減衰させない(楽器の振動を妨げない)
(3)不要なノイズを出さない
さらっと書いてしまうと当たり前の事のような気もしますが、色々スタンドを実際に見てみると意外にもずさんな設計がなされているものが多いようです。機能面での進化は果たしているものの、コストの削減という問題と直面した場合、こうした楽器としての基本部分がおろそかになってしまうのは残念な事です。
話を本題に戻しましょう。
上記の3つのポイントを実現させるためにはどのような事に注意すればいいのでしょう。
(1)共鳴、共振を押さえる。
スタンドは細い方がいい音がするという概念は、あながち間違いでは有りません。なぜなら、共鳴管としてのパイプ部分を細くすれば共鳴する度合いが低くなるからです。
但し、細いスタンドは強度的に弱く楽器の振動がスタンドの揺れに変換される事が多いため、サウンドは軟らかな方向に向かいます。どちらかといえばアコースティックなシーンで、それほどハードなプレイが必要無い人向きといえるでしょう。
では、ハードヒッターはどうすればいいのでしょう?
これまでのコラムで、重量が重ければ振動しにくいという事を書きました。これをそっくりスタンドに当てはめれば、重たいスタンドほど共振しにくいということが言えます。パイプ自体の肉厚があるタイプ、メッキが厚いタイプ等がそれで、スタンドとしての強度、安定度も上がりますのでサウンドの分離も良くなり明瞭な響きが得られます。
(2)振動を妨げない。
振動が止まってしまう=音が止まってしまうという事なので、スネアでもシンバルでも楽器がスタンドに接する部分は極力接触面積が小さい方がいいと考えるのが当然です。
楽器の振動がスタンドに伝わりにくい構造も考慮しなければならないでしょう。ただし、振動を吸収、相殺するような極端な構造を持たせてしまうと、楽器音の立ち上がりがぼやけてしまう恐れが有ります。この辺のバランスが非常に重要になってきます。
また、あまりにも脆弱なスタンドの場合、楽器の振動を支えきれずいい結果が得られません。
(3)ノイズ
スタンドにおける楽器との接触面、パイプ同士の接合面など、金属同士が接触すると思われる部分はすべてノイズ発生源になる恐れが有ります。このノイズ予防策がパイプの共鳴防止効果も生んでいるメーカーもあります。細かい事ですが非常に重要ですので必ずチェックして下さい。
4,タムホルダー
タムホルダー(マウント方法も含め)は各社それぞれ色々工夫をしている部分ですね。
RIMSの登場以来、金具をシェルに直接付けないでタムの振動をフルに生かす方向の物が当たり前になってきています。マウントの方法も、Lロッド、パイプ、ストレートロッドなど様々なタイプがあります。
セッティングのやりやすさや好みの問題も関わってきますが、RIMSでも使っていない限り、他メーカー同士の互換性がほとんど無いことから選択の余地はあまり有りません。(全部共通になってくれれば良いんですけど.....)
※ おまけ「余韻と立ち上がり」
この項の冒頭に書いたRIMSはタムのボディに金具を付けず、リム部分を金属の腕で抱え込むようにタムを吊ることでシェルの鳴りを最大限に引き出すことを目的としたマウント方法です。ホルダーに付けず、手で持った状態でタムを叩いた時のサウンド(フルボディな非常に余韻の長い音)を簡単に引き出せるといううたい文句で一気に世に広まっていきました。今では各社とも若干のシステムの違いがあるにせよ、このサスペンション・マウント・システムが装着されています。
しかし、RIMSタイプのサスペンション・システムも万能では有りません。確かに余韻は稼げるし、フルボディな鳴りを得られるという点では非常に優れたシステムです。
但し、楽器に加えるエネルギーが同じレベルであれば余韻が伸びたと言うことはサウンドの何処かで減少してしまった部分が有ると言うことなのです(物理学で言うところのエネルギー保存の法則)。そう、アタックがぼやけてしまうはずなんです。
ドラムセット購入の際は、自分の必要なサウンドがどういう音なのか、良く考えて仕様を決めましょう。
5,HHスタンド
HHスタンドは、ペダル同様に楽器の音を出すための道具としての側面とシンバルスタンドのような楽器を支えるための物という2つの面を持ちあわせています。
したがって、HHスタンドを選ぶ場合、この両面から善し悪しを考えていかなければなりません。どちらを優先させるかは奏者次第と言うことになりますので自分自身で考えてみて下さい。
A. サウンドに関わるスタンドとしての側面
スタンドとしてのサウンドに影響するポイントは、ほぼシンバルスタンドと同様に考えて差し支えないでしょう。但し、HHスタンドの多くはパイプ内部にスプリングが組み込まれており、このスプリングの共鳴という問題も加味されます。
B. 道具としての側面
キックペダル同様、楽器を演奏するために操作が必要なハードウェアですから当然、操作性の良さと言うことを考えなければなりません。
ペダル同様、各社共駆動部分に色々な工夫を施し操作性の良さ(レスポンスやフィーリング)の向上をはかろうとしていますが、複雑な構造を組み込んだモデルは自然な動き(踏み幅と動く距離)という点で若干の違和感がある場合があります。ですから、ペダルを選ぶ時と同様に必ず実際の使用感を試してから購入する事をオススメします。
ハードウェアに付いてあれこれ書いてきましたがいかがでしたか?
なんか、文章ばかりが長くなり面白くなかったかもしれませんが、上級者になればなるほど音へのこだわりも大きくなるはずです。たかがスタンドと侮らず、違った視点でハードウェアを見ると、あなたのプレイも変わってくると思います。 |
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