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・楽器オモテウラ話_9月号
より身近に考える「ドラマーのための物理学講座 -実践編-」


 前回までのコラムでは、ドラムに関わりのありそうな物理学っぽい雑学を抽象的な形でご紹介してきました。今回からは更に一歩踏み込んで、より身近で具体的な事例を挙げドラムとそれにまつわる品々を考えてみたいと思います。
 第一回目は、ドラマーにとってもっとも身近であるにも関わらずなかなか実態がつかみにくい「スティック」に焦点を当ててみます。



第 1 章 スティックの科学


 ドラムをはじめようと思い立った時、よほど変わった人でない限り、まず始めに手に入れようとするものがスティックですよね。しかしこのスティック、はっきり言って星の数ほど種類があるために自分にぴったりの一組を探すのは至難の技です。

 では、どうやったら自分のお気に入りのスティックを手に入れることができるのでしょうか?

 スティックを選択する際の基準としては、

1,自分の手にしっくりするもの
2,振りやすいバランスのもの
3,自分が出したいサウンドが容易に得られるもの

といったような事が考えられますが、大事なことは太すぎず、長すぎず、重すぎず、軽すぎず、とにかく使いやすいこと、これに付きます。
 この辺りの判断ができれば、膨大な数のスティックの中からある程度自分に合ったものの絞り込みはできると思います。この絞り込みの作業をする時にスティックの特性を知っていればかなり楽にスティックを選ぶことが可能になってくると思います。では、このスティックの特性を示すキーワードを順を追って考えていきましょう。


§1. スティックの材質

今さら言うまでも無くスティックは1部の特殊なものを除けばほとんどのモデルが「木」でできています。たくさんの種類の木材が使用されていますが、中でもポピュラーなものとしてはヒッコリー、メイプル、オークの3種類が上げられます。

● ヒッコリー:素材自体に適度な柔軟性があり、弾力性が高いという特徴があります。しなり具合やリバウンドの感じも良くパワーが出しやすいため非常にバランスが取れた素材と言えるでしょう。当然人気も高く、スティックの素材としてはもっともポピュラーなものです。ただし消耗が早いという欠点があります。
まれに通常より木肌が赤っぽく、密度、質量ともに高いレッドヒッコリーという材も見受けられ、こちらはパワープレイヤーにオススメ。後述のオーク材に感じが似ています。

●メイプル:ドラムシェルの素材としてもっとも認知されている非常に硬く、軽い素材です。高密度な素材からは非常にシャープなサウンドが得られやすく、特にシンバル演奏時にはクリアで繊細なサウンドを引き出しやすいため、こだわりのドラマーに人気があるようです。しかし、硬くて軽いことから割れやすいためハードヒッターにはあまりおすすめできません。

●オーク:正しくはジャパニーズ・ホワイト・オーク(またはジャパン・オーク)、すなわち樫のことです。
ヒッコリーやメイプルに比べると重く、弾力性に欠けます。したがって繊細さや軽めなサウンドを得るにはかなりの技量を要する素材と言えます。しかし耐久性は抜群で、ロック等パンチのあるサウンド、パワーが要求される音楽シーンでは、好んで使用する人が多いのも事実。また、その質感から練習用のスティックとしての人気が高いようです。

< 材質豆知識 >
 オーク材と言うと皆さんはおそらく樫材のことを思い浮かべると思いますが、これは間違いです。ヤマハのオークカスタムの登場で初めてオークと言うのは楢(ナラ)材であると言うことが解った人も多いのではないでしょうか。
 実は、オーク=樫と言うのはその昔 ヨーロッパのオーク材を輸入した人達が意図的に誤訳したことのなごりなのです。当時ナラ材はブナ(ビーチ)材同様に日本のいたるところに棲息していた、あまり価値の無い材木だったのです。欧州の高級家具材であるオークがナラであるはずがないと考えた輸入業者がオーク=樫(高級木材)と言う翻訳をしたわけです。

●その他の素材:上記3種類の他にも紫檀や黒檀などを用いた高級スティック、アルミ、ファイバーなど木以外の素材を使ったものなど色々あります。それぞれに素材の特徴があり、サウンドにも影響してきますので機会があれば試してみると良いでしょう。



§2. スティックの形状

 スティックの形状がスティックのバランス、使用感などに及ぼす影響は非常に大きいです。スティックのバランスが如何に自分にあっているかどうかを考えることはスティックを選ぶ上でもっとも大切な要素となります。
 スティックの形状を表わすキーワードには以下のようなものが上げられます。

a,グリップの太さ
b,スティックの長さ
c,ショルダーの長さと角度
d,ネックの太さ
e,チップの形状(文字どおりの形と大きさ)

これらの要素ひとつひとつ、またはこれらの要素が関連しあってスティックのバランスが決まってきます。
 では具体的に考えてみましょう。

1,グリップの太さ
 当然、自分が握りやすい太さを探さなければいけません。これは実際に色々試してみるしかないですが、必要なサウンドによってはそれより太いもの、細いものを選ぶ必要がある場合も出てくるでしょう。
 但し、太すぎるスティックはそれを支えるために余分な力が必要になり、逆に細すぎるスティックは手の中で遊びが出来てしまうので、これまた余分な力が入りやすくなってしまいます。

2,スティックの長さ

 棒状のある程度の長さをもった物を振るわけですから、当然遠心力がかかります。したがって同じ重量のスティックを振っても、長いほうが重く感じられるはずです。
 しかし、極端に長いものや短いものを選んでしまうと演奏スタイルによっては扱いにくくなる恐れがあるので、バランスのことだけを考えて長さを決めるのは危険です。

3,ショルダーの長さとR 形状
 スティックはそのほとんどがチップ先端に向かって細くなっていきます。この部分をショルダー(またはテーパー)と呼びます。このショルダー部分が長ければ先端部分が軽くなることは解りますね。一般的に言うところの重心バランスがグリップ側に来ると言う現象です。逆にショルダー部分が短ければ短いほど重心バランスは先端側により、スティックは重く感じられるようになります。また、ショルダー部の狭まり具合の角度が大きければ重心はグリップ側にきます。

4,ネックの太さ
 チップの付け根の部分をネックと言います。この部分の太さは前述のショルダー部分や後述のチップの大きさとも密接に関連しています。これは説明しなくいても解るかな? 解るよね。当然、太ければバランスポイントは先端によっていきます。

5,チップの形状
 スティックの形状でバランスを考える際に重要なのがチップの大きさ。当然大きいほうが重いため重心は先端に寄っていきます。チップの形はバランスよりもサウンドに与える影響が大きいのでここでは省略。ということで色々説明しましたが、結局のところ実際に振ってみないと分からないでしょう。逆に振ってみてOKならそれでよしとしていいと思います。

 ただ、何の手がかりも無いまま闇雲に試しても意味が無いので、自分に必要なスティックがどんな感じなのかを考え、想像する時にこの知識が役立つはずです。

 例えば、パワーが出るスティックが欲しいけどあまり太いと握りきれないなーなんていう悩みをお持ちの方は、細めのグリップでもショルダー部分が短くチップが大きめの物や少し長めのスティックを選ぶと言った感じになります。
 また、店頭でスティックを選ぶ時に重さを計っている人を見掛けますが、自分に合ったバランスのスティックが決まっていないのであれば余り意味の無い行為です。あくまで振った時に感じる重さが重要なのであってスティックその物の重量を計るのはそれほど重要だとは思いません。重さを計るのは自分の使いやすいモデルが決まってからにしましょう。



§3 スティックがサウンドに与える影響

 スティックはあくまでドラム演奏に必要な道具であって、自分にぴったりのスティックを持つ事が目的ではありません。という事は、使いやすいスティックで自分の出したい音が出せなければせっかく時間をかけて選んだスティックも本当の目的を果たせません。
 ここでは、スティックによってどんなサウンド変化が起こるのか考えましょう。


1,素材の違い

 スティックは直接ドラムヘッドに触れることになるので、素材の違いがサウンドの違いに直接つながってきます。これまでのコラムで記したように、硬ければ硬質に、重ければヘビーなサウンドになっていきます。また、太ければ太い音に、密度が低ければぼやけた音になるでしょう。

2,バランスの違い
 スティックの重心バランスの違いによって振った感じが変わることは前章でも触れましたが、実はサウンドにも違いが出てきます。重心がチップ寄りにある場合遠心力が大きく働き、かなりの力がヘッドに加えられることになります。したがってサウンド的には音量の豊かな太いサウンドが選られやすくなります。逆に重心がグリップ寄りにある場合、音量は出しにくくなりますが、クリアなサウンドが引き出しやすいでしょう。

3,チップの形状や大きさ
 スティックとドラムサウンドの関係を語る上で避けて通れない事柄です。雑誌などでも良く取り上げられているので皆さんもご存知ですよね。

代表的なチップの形状としては、

1) 丸(BALL)
2) 涙(TEAR DROP)
3) 楕円(OVAL,OLIVE)
4) 俵(SQUARE)
5) 三角(ACORN,MASHROOM,TRIANGLE)

等があります。
 これら形の違いで打面との接触の仕方が変わるため大きくサウンドが変わってくるわけです(特にシンバルで顕著に現れます)。

 例えば、丸チップは打面の接触する面積が常に一定になるため安定したサウンドが得られやすかったり、楕円形チップは接触面積が広くなるため太い音を出しやすくまた、打面にあたる角度によって音色に変化を持たせることが可能です。さらに、同じ形であっても大きさが違えば音も変わる事は周知の事実です。

 この事は、何種類かのスティックを購入して実際に試してみるとはっきりと感じることが出来るはずです。


まとめ

 ここまでスティックについてあれこれ書いてみましたが、いかがでしたか。「こんな事はもう知ってるよ。」という人もかなりいたんじゃないかな?
 しかし、本当は実際にスティックを振ってみて、使ってみて自分で感じるフィーリングとそこから得られるサウンドのバランスでスティックを決めるのが1番確かかもしれません。
 あくまで、スティック選びの手がかりということで何かの役に立つこともあるでしょう。とにかく使いやすく、好きな音が出せること、この2つのポイントを踏まえあれこれ試してみましょう。


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