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・楽器オモテ・ウラ話_10月号
より身近に考える「ドラマーのための物理学講座 -実践編-」


第 2 章 ペダルの力学

 前回はおそらくドラマーにとってもっとも身近であると思われるスティックについて考えてみました。スティックとくれば次はこれだろうと思うのが「ペダル」。今回はこのドラマーの体に直接触れる2大巨匠の片割れ、ペダルについてあれこれ考えてみたいと思います。

§1 良いペダルとは?

 皆さんは自分にとって最適のペダルってどんな物なのか考えたことがありますか? おそらくじっくりと自分に合ったものを探したことがある人の方が少ないのではないでしょうか。ペダルを選ぶ際注意しなければならないポイントには以下のようなことが上げられます。

(1)自分が音を出したいポイントに正確に踏める(自分のリズム感に従順なペダル)
(2)自分が望むサウンドが出せるペダル。

 はっきり言って、この2つのポイントがクリアできれば そのペダルはかなり良いペダルだと言い切ってしまって良いと思います。
 しかし、現実には「好きなドラマーが使っているから」「ペダルは踏み心地が軽いほうが良い」「動きが速いペダルが1番良いに決まってる」など、周りの人やメディアからの意見や情報、先入観等からペダルを決めてしまっている人が多いのです。

 「自分の感覚にピッタリ マッチした踏み心地とサウンド」

これが得られるペダルをキーワードに、ペダルについてもう1度考えてみましょう。



§2 ペダルのしくみ(ペダルでバスドラムが叩けるわけ)

 ペダル(ドラムペダル、フットペダル、キックペダル)の基本的な構造はすべての物がほとんど同じです。基本的な構造は図1のとおり、フットボードを踏むことで得られる上下運動を回転運動に変換させてビーターがヘッドにヒットするために必要な前後運動を得るシステムであるということです。
 簡単に説明すると、フットボードを踏むことで発生した下向きの運動エネルギーがチェーンやベルトなどを経てプーリー(カム、スプロケット、ホイールと呼ばれる回転する部分)に伝わり、このプーリーに固定されたビーターが打面をヒットするわけです(って、全然解りやすくないじゃん!)。

 この動きには、梃子や滑車の原理を当はめることが出来ます。「梃子」と「滑車」は、小さな力で大きなものを動かすために使われるものです。これらの原理ははやくから人々に知られ、生活のなかに取り入れられてきました。また、両者ともに、今日でも機械の構成要素として重要な役割を演じています。

 以下に簡単な説明を..........。


(1)梃子(てこ)     まずは図2をご覧ください。
 これは梃子の原理を簡単に示したものです。「作用点」に存在する物体を「支点」「力点」の位置の設定で、より効果的に物体を動かそうというちょ〜便利な技術で、力が加わる点を力点、力を加えることで影響を受ける点を作用点、梃子の動きを支える点を支点といいます。

 支点から力点までの距離を支点から作用点までの距離の2倍にすれば、作用点の物体を直接持ち上げる半分の力で動かすことが出来ます。
 ただし、運動の熱量は変化しませんので(エネルギー保存の法則)動かす距離は2倍になります。
   
(2)滑車

 図3をご覧ください。
 こちらは滑車の原理を示したものです。ご覧の様に滑車の基本的なものには「定滑車」「動滑車」の2種類と、定滑車の発展型である「輪軸」という機構があります。ペダルに関係あるものは定滑車と輪軸になります(パールに、動滑車の原理を応用したHHスタンドがありますね)。

 定滑車は固定されたプーリーにより力の方向を変えることで物体へ力を加えやすくすることが出来ます。この場合、梃子の様に力の大きさを変えることは出来ません。あくまで方向が変わるだけです。

 それに対し輪軸の場合、半径の違うプーリーを2つ用いることで力の大きさを変えることが可能になっています。力を加えるプーリーをA、動かしたい物体を固定するプーリーをBとすると、Aの半径:Bの半径が2:1になれば、動かす力は半分になります。

 ただし、ここにもエネルギー保存の法則が適応できますので、動かす距離は倍になっているはずです。
 動滑車は図の様に普通、定滑車と組み合わせで使用されます。動滑車を使用すると、重量物が半分の力で持ち上げられるという優れものです。(当然、動かす距離は倍になります。)
(3)ペダルは滑車の一種

 上記2つの図、特に滑車の構造を見てみると、ペダルの機構にそっくりだと思いませんか?そうです、ペダルも滑車のひとつであると言うことが出来るのです。

 下向きのペダルを踏む力が滑車によって回転運動に変換され、されに輪軸効果で少ない力でビーターを打面に打ち出すことが可能になっているのです。そして梃子の原理の応用で支点と作用点の位置関係を変えることでペダルの踏み心地を調節しているわけです。
 ペダルにおける力点、支点、作用点の位置関係には色々な考え方が出来ると思いますが(どこに力を加えて、どこを動かすのかを意識するポイントで変わってきます)、上記の原理を応用していることに間違いはありません。



§3 ペダルの種類と特徴

 前のセクションで説明したとおり、ペダルの動きは梃子や滑車の原理を応用したものです。そして支点と作用点の位置関係の違いがペダルアクションの違いに直結します。ここでは、ペダルの動きに焦点をあてて機構の違いによる特徴を考えてみます。
(ここでは、力点をフットボード、支点をチェーン等がプーリーに接触するポイント、作用点を回転シャフトと考えています。)


(1)真円プーリー

 輪軸の機構をそのままペダルの機構に置き換えたタイプと言って良いでしょう。以前のコラムでも書いたとおり回転半径と支点の位置が常に一定でもっとも安定したストロークが得られます。サウンドも奏者の実力が素直に出るタイプになります。回転半径が大きいほど踏み心地は軽くなりますが、自分の踏み方がそのまま動きやサウンドに直結するため、人によってはレスポンスが悪いと感じることがあるかもしれません。


(2)楕円(偏心)プーリー

 プーリーの回転半径がペダルを踏み込むにしたがって小さくなっていくタイプです。滑車の原理で言うなれば、輪軸機構から徐々に定滑車に移行していくことになります。
 踏み始めは軽く、次第に重くなっていきますが、回転半径が小さくなっていくことからスピードが上がりパワーが稼げるはずです。
 アクションは偏心の度合いが大きいほど癖が出てきます。サウンドも偏心度合いによって印象が変わってきますが、半径の変化が大きければスピード重視でライトなサウンド、変化が小さければパワー重視で鋭いサウンドになるでしょう。


(3)シャフト接続

 ラディックのスピードキングに見られる機構です。このタイプは滑車というよりは梃子その物といったほうが良いでしょう。作用点から支点の位置までは常に一定なのですが、ペダルの動きに合わせて支点が移動するためかなり直線的な動きをします。アクションはスピードが速く、ふわっとした印象の物が多いようです。もちろん回転半径が長いほど踏み心地は軽くなっていきます。

※ もう一つの考え方として、力点をチェーン等がプーリーに接触するポイント、支点をシャフト、作用点をビーターとする方法があります。動作の特徴については皆さんで考えてみて下さい。



 今回は、ペダル駆動系のシステムとアクションの関係に付いていろいろ書いてみましたがいかがでしたか?
 ペダルのしくみや構造によるアクションの違いを知っていれば、自分にあった踏み心地のペダルを探す時に役立つと思います。

 次回は、さらに一歩踏み込んでペダル選びに付いて考えてみたいと思います。ずばり、ペダルとサウンドの関係。踏み心地だけでペダルを選ぶ段階はそろそろ卒業して、使い勝手とサウンド面の両立したペダル選びの手がかりになってくれれば良いかな。ご期待下さい。

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