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より身近に考える「ドラマーのための物理学講座 -実践編-」
第 3 章 イスの重要性

 前回まででドラムを演奏する時に直接体に触れている道具、スティックとペダルについて考えてみました。体に接触すると言う事で道具としてはこの2点、非常に重要視されています。しかし、もう一つ体に触れているもので忘れてはならないものにイス(ドラムスローン、ドラムスツール)があります。私自身、実はこのイスがハードウエアの中で1番重要なものであると考えています。それはいったいなぜでしょうか?

 今回はドラマーを支えるイスについてあれやこれや考えてみたいと思います。
§1 なぜイスが重要なのか?

 皆さんはドラム演奏時に使用するイスについてどのように考えていますか?
 おそらくそんなに重要なアイテムだとは思っていないでしょう。何しろ店頭でドラムを売っていて、真っ先に予算が削られる物の一つですからね(中にはそうじゃない人もいますが)。

 しかし、よーく考えてみて下さい。ドラムは一部の特殊な例をのぞけば基本的に座って演奏する楽器です。そして、体全体を使って様々な楽器を叩くことになります。
 この際、この体を支えているのがイスなのです。したがってイス自体の安定性、座り心地などが非常に大切になってくるのです。

 イスに安定感が無いとプレイも不安定になるばかりでなく、腰に多大なる負担をかけることになり、良いことは全く有りません。

 イスその物も重要ですがもう一つ、イスのセッティングも非常に大切です。イスに安定感が有っても座り方に問題が有るとせっかくのイスの良さが損なわれいいイスに座っている意味が無くなってしまいます。

§2 良いイスの条件

 まずはイス自体を考えてみます。
 良いイスの条件は、以下のようなことが挙げられます。

1,脚部の剛性が高い(ねじれ、よじれが無い)
2,脚部と座部の接合精度が高い(座面の揺れやブレが無い)
3,奏者の好みの座り心地が得られるシート
4,耐久性の高さ
5,奏者の好みの高さに簡単に調節できる......(順不同)

 いずれも大切なことばかりですが、おそらく皆さんがイスを買うとしたら座り心地をメインに考えて試すことが多いことでしょう。でも、あなたの全体重を預ける物ですからもっと慎重に選んでもいいと思います。特に全体の強度や耐久性の高さは、長い間使うことを考えれば非常に重要になってきます。

 では、先に挙げた要素がなぜ大切なのか、順を追って考えていきたいと思います。


イスの構造と座り心地 >

1,シートの硬さと形状

 座り心地を考慮する時にまず気になるのがシートの硬さと形状ですよね。どちらの要素も人それぞれ好みが分かれるところだと思います。
 硬いシートだと長時間座っているとお尻が痛くなると言う人がいれば、柔らかいシートでは腰が安定しない、腰が痛くなるなど色々な意見を耳にします。確かにどちらの意見も正しいですから、シートの硬さはどっちがいいか迷います。
 私が個人的にオススメするものは「硬くて柔らかいもの」です。これでは何のことか解らないと思いますが、ようするに相反する要素が同居している=どちらの要素も存在しているということです。解りやすく言い換えると、シートの表層が柔らかく底部が硬い構造を持ち臀部を包みつつもしっかり支えてくれると言うことになります。

 シートの硬さは腰痛にも大きな影響を与えます。高級自動車のシートは腰が疲れにくいと言う話はよく耳にすると思いますが、これはシートに使用されているクッション材に起因することです。非常に硬いクッションの場合、シート面と体が点接触になり体重を狭い面積で支えることになります。そうなると下半身の血行が妨げられ腰が冷えてくるのです。
 だからと言って柔らかければいいと言うものではなく、柔らかすぎるクッションでは逆に体を支えきれず体が不安定になり無理な動作を強いられる要因になります。そこで、先程の硬くて柔らかいシートが威力を発揮するわけです。表層の柔らかい部分で耐圧を分散し、硬い部分でそれをしっかりホールドする。これがこれからのシート選びのキーワードになりそうです。

 もう一つの形状ですが、これはもうはっきり言って好みですので実際座ってみて言いと思ったものを選べば問題ないでしょう。例えば、低めのイスに深くかける人だったらサドル型、高めのイスに浅くかけるのであればラウンド型などそれぞれにあった形状が必ずあるはずです。



2,脚部や接合部の剛性と耐久性

 シート部の出来が素晴らしくてもそれを支える脚部の剛性が低かったらどうなるでしょう。これはもうおわかりだと思いますが、せっかくのシートの良さが100%失われてしまうことになります。
 シート部の性能が良く、しっかりと臀部をホールドしてくれたとしても、脚部にねじれやよじれが生じてしまうと座り心地は不安定なものになります。シングルブレース、ダブルブレースなど脚部の構造も色々ありますが、その形状よりも成形段階での精度の高さや素材その物の高度によって脚部の剛性の高さが決まってくるようです。また、脚部とシート部の接合面によっても安定感に差が出てきます。

 以前はこの部分のシステムはほとんどがボルト1点止めもしくはパイプまたはロッドにかぶせてあるだけでした。  しかし、タマの1stチェアの登場によりクランプタイプの面接触タイプが主流になってきました。点接触より面接触の方が安定性が高いことは解っていただけると思います。

 これら2点以外にも、イスの基本剛性や耐久性に関わる要素は色々考えられると思いますが、要は如何に安定した状態で体を支えられるかどうかと言うことなので、実際に座ってみて、自分が演奏している時に起こり得る姿勢を無理なく支えられる強度が十分にあるかどうかを確かめてみることが大切になるわけです。中にはすこしくらい揺れを感じた方がいい人もいるでしょうがそれはそれということで.....。


§3 イスと姿勢の関係

 ドラムを演奏する際の姿勢については色々な人が様々な意見を言っています。

 背筋をまっすぐに伸ばし安定した姿勢を作ることでビートに安定感を出すと言う意見。それとは反対にいわゆる猫背状態で背骨の伸び縮みを利用して乗りを作り出すという意見。どちらがいいかはこれまた人それぞれですが、どちらであっても極端すぎるのは考え物ですが奏法や必要な音、ノリの出し方によって自分に合うやり方を見つけるしかないでしょう。

 ここでは姿勢そのものではなくイスが人体に及ぼす影響を考えていきたいと思います。


1,シートの硬さの影響

 皆さんはシートの硬さの違いで腰の疲れ具合に違いがあることに気付いたことがありますか?
 特に背筋を伸ばして座る人はこういったことを感じることがあるはずです。腹筋、背筋が十分に強い人であれば問題ないのですが、そうでない場合イスからの(と言うか床からの)押し返しによって背中、腰に相当な負担がかかっている場合があるからです。イスに座れば当然のごとく床に力(この場合、最大で自分の体重程度)が加わり、その反力として床から押し戻そうとする力が返ってきます。シートが硬すぎる場合、その反力がまともに体に返ってくる為、それを逃がそう(自分で吸収しよう)として背筋が曲がってくるのです。
必要以上に柔らかいと問題ですが、シート部にある程度の柔軟性があった方が腰への負担は少ないかもしれません。硬めのシートが好きな人は腹筋、背筋をしっかり鍛えておきましょう。

2,イス自体の安定感と姿勢

 先にイスの強度や安定度は高い方がいいと言う意見を述べました。これは体に対する影響という側面からも同じことが言えます。
 本来しっかりと体を支え、安定したプレイが出来るように一切の不安を感じないはずのイスが「グラグラ」「ガタガタ」の状態であれば、イスのぶれを補正し体を安定させるために自分の筋力を使わなければならなくなるからです。いってみれば不要な力が入ってしまうわけです。その力は微々たる物かも知れませんが、長時間にわたって同じことを繰り返しているうちにやっぱり腰に負担がかかるようになるわけです。
 ちゃんとしたイスに座って、要らぬ気を(力を)使わないようにしましょう。


3,イスの高さと姿勢の関係


 イスの高さに関しても色々な意見があります。高くセットした方が体重をかけやすい、低くセットした方がゆったりとしたノリを出しやすい等など、こちらも奏法や好みによって様々だと思います。どちらがいい悪いと言うことはないので、自分が楽に演奏できる、長時間座っていても疲れにくい等を基準に色々試してみて下さい。

 一般的には、高目の椅子に座った場合体重がイスと両足に分散されやすくなり、腰への負担は軽くなります。背筋をしっかり伸ばしたタイプのドラマーが多いようです。
 また、低めのイスに座った場合、全体重を腰で受け止める形になり足の自由度は高くなりますが、その分体への負担は大きくなるでしょう。やや猫背気味の人が多くなるようです。


§4 イスへの座り方とセッティング、プレイとの関係

 イスとドラマーの接触の仕方によってもプレイに大きな影響が出ることは、あちこちで言われています。先に延べた高さの問題の他にも、シートに座る位置、セットからの距離など色々と考えなければならない要素はたくさんあります。基準はあくまであなた自身のプレイスタイルや体格に合わせたものと言うことになりますが、ここでは私が考える基本的なセッティングの方法について語らせていただきます。
 一般的に、基本的なイスのセッティングに関しては次のようなことが言われることが多いようです。


●イスの高さは、ペダル上で踵を上げた際、膝がももと水平またはちょっと前下がりになるくらいにする。
●シートに浅く腰掛け、ももの動きを妨げない様にする。


 大体この2点くらいですね。

 でも、本当にこれだけでいいのでしょうか?
 イスに座ると言う動作は、ドラムセットに向かった時に始めに行なう動作であり、気持ち的にもプレイ的にも非常に大切なものです。イスへの座り方が不十分では安定したプレイは望めません。まして、体格に全くそぐわない位置にセットされたイスではお話しにもなりません。では、どのようなことに注意したらいいのでしょうか。

1,イスの高さと座る位置

 ドラムをセッティングする際、まず1番最初にこれを決めて欲しいぐらい重要だと思います。自分が演奏しやすい高さでいいと思いますが、長時間座っていても負担にならない(疲れにくい)高さを探すように心がけて下さい。
 前出の「膝がすこし下がり気味」というのはあたらずとも遠からずって言う感じです。この辺を基準にちょっとずつ調整してみるといいでしょう。人体工学上では、おそらくドラムを演奏する際にもっともリラックス出来る状態というものの定義があるのでしょうが(例えば膝の角度は100°ぐらいとか?)、あくまで自分の感覚でいいでしょう。

 高さが決まればシート上の腰を据えるポジションはおそらく自然に決まってきます。こちらも心地良くしかも安定して座っていられるポジションを探して下さい(例えば、高いイスであれば自然に前側に腰掛けるようになると思います)。
 そして、高さよりも重要かもしれないのがイスを接地する位置=バスドラムからの距離です。先に、膝の角度について軽く触れましたがこの角度が重要になってきます。
 実は高さを決めたと言うのは膝の角度を決めていることになるのです。そうです、膝の角度を固定したとすれば、低く座るなら少し離れて、高く座るならやや近目に座ることになるはずです。極力、窮屈な体勢にならない様に注意しましょう。

※ポジションが近すぎたり遠すぎると思うようにプレイが出来なくなるばかりか、体に負担がかかり腰痛の原因にもなります。よーく考えてみて下さい。腰、膝、足首などの部位が楽なポジション(高さも含め)が必ずあるはずです。


 今回は椅子に付いてあれこれと考えてみましたがいかがだったでしょうか。
 とかく後回しにされがちなイス選びとイスのセッティング。今1度考え直してみて下さい。自分に最適なイス、ポジションを見つけるだけでプレイの方も安定し、技術的にも進歩する可能性が広がるはずです。

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