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・楽器オモテウラ話ー5月号
(テキスト:西尾健二)

ためになるかどうかはあなた次第!?
「ドラマーのための雑学講座」

第2回目
「販売に携わる者にとっての良い楽器とは?」

 皆さんを始めとするプレイヤーにとって良い楽器といえば、まず間違いなく「自分の好みの音がするもの」「自分が演奏しているバンドや曲にマッチしたもの」「見た目がカッコイイ物」などになるでしょう。しかし、我々楽器店のスタッフや作り手としてのメーカーになると「良い楽器」に対する考え方は少し違った物になります。

 今回は、ネタばらし的にこの辺のことを語ってみたいと思います。

1)楽器店に並んでいる楽器達

 全国にはたくさんの楽器店が有り、それぞれに経営方針やお店の個性にあった楽器が陳列されています。ギター専門店にドラムをならべてもあまり意味が無いですからね。実はこの経営方針やスタッフの考え方がお店で見られる楽器の種類を大きく左右しているのです。

 世の中に出ているカタログに掲載された商品はとにかく何でも置いてある店(大型楽器店)、店内にはほとんど楽器が無くメーカーからの取り寄せで対応する店(地方の楽器店に多いみたい)、スタッフにこだわりが有りお眼鏡にかなった物しか置いていない店(専門店に多いかな?)など、その傾向は様々です。このあたりのことを把握した上で楽器店を利用することが賢く楽器を購入するポイントになるかもしれません。

 さて、ここからが本題です。

 そもそもなぜお店によってこうも並んでいる楽器の種類が変わっているんでしょう。これが「お店が考える良い楽器」ということにつながっていくわけです。一言で良い楽器と言ってもやはりお店によってその考え方はまちまちです。

(1) 黙っていても良く売れる商品
定番中の定番商品や流行物がこれにあたります。確かにお店としては売れないことにはしょうがないので.....。

(2) とにかくスタッフが気に入り、お店として自身を持ってお客様にすすめられるもの
スタッフのお眼鏡にかなった物。スタッフのこだわりが伺えます。個性的な店に多いパターンです。

(3) お店の客層にあったもの
ジャズドラマーが中心の店にロック色の強い楽器を置いても売れませんから....。(1) と考え方は近いかな?

(4) 金額が安く、なおかつ商品力があり在庫負担にならない物
お店のスペースかぎられており、何でもかんでも置けない場合、どうしてもこうなります。ここでもやはり「売れるもの」というのがキーワードになっています。

 ここに上げた項目はどれをとっても正論です。これらの項目をクリアできていれば楽器店にとってはどれも素晴らしい楽器ということになります。

2)メーカーがお店に並べたい楽器とは?
(この項目はすべて想像によって書かれています。)

 毎年毎年色々なメーカーから様々な新製品が登場してきます。もちろん、市場が期待し望むからですが、よくもまあ次から次へと新しい物がでてくるなーと感心します 。しかし、中には「これは無理矢理だなー」と思う物も少なくありません。何も無理して新しい物を作らなくてもと思うのですが、一般ユーザーは許してくれないようです。

 本来、楽器という物は「音楽を演奏するための道具」であり基本的に良い物が出来上がれば別に仕様を変えて行く必要は無いはずです。もちろん、従来ある物の「ここをこう変えればもっと良くなる」というやり方であれば問題ないのですが.....。

 逆に「こんなにも人気があるのに....」という、いわゆる名器と呼ばれる物が廃番になっていったりもします。また、素晴らしいアイデアなのに他社がパテントを持っているからうちでは出来ないといった事もまま見受けられます。

 メーカーとしてはエンドユーザーの求める物=今、売れそうな物を作らざるを得ない、しかも製造コストは出来るだけかけずたくさん売りたい、というところが実際のところなのでしょう。 「今、こんな楽器が流行っているから」「あのメーカーの楽器が人気が高いから、同じような物を作ってしまえ」「値段が安い物が売れるから、もっとコストを下げよう」「他社が良いアイデアを出してきたから似たような物が作れないか」....など、色々な理由があると思いますが、昨今のメーカーカタログを見ると作り手の苦労が見えてきてしまって昔のような夢が無くなってきているように思います。

 結局、メーカーも楽器店と同じ様に「売れる物」が良い楽器と考えている節が強く出ていると思います。中にはそうでないところもありますが、良い物を作っても売れなければ評価されないというのは悲しい現実かもしれません。

 メーカーとしては、そのメーカーらしい「しっかりしたコンセプトを持って作り込まれた楽器」を自信を持って発表していきたいというのが本音だと思います(そうであって欲しい!)。しかし、時代に迎合したいわゆる「売れ筋」を作ることでメーカーとしての基盤を作らざるを得ないという現状は悲しいところです。

 ファッション業界のような「今年はこういった物を売っていこう」みたいな作為的なやり方が無いだけ良いのかもしれませんが、使い手が望む、使い手が作っている流行に乗るというやり方はどうなんでしょうか?

 「自社らしい物を作って売っていきたい」という本音と、「売れる物を作らざるを得ない」という現実。これから楽器メーカーは何処へ行ってしまうのでしょうか?

3)じゃあ、おまえはどうなの?

 ということで、ここからは私個人の考え方に突入です。これまでのコラムで楽器について色々書いてきましたから、ある程度見えてしまっていますが、私が考える(楽器店スタッフとしての)良い楽器という物はお教えしましょう。

 私のいる浅草のお店の傾向としては、「こだわりの商品構成(客層やスタッフのこだわりにそって商品を陳列)」の部類になっています。専門店に求められているのは、何処でも見ることが出来る商品というよりもマニアックなもの、他の店ではほとんど見れない物が中心になります。事実、パールやヤマハのスネアなどはほとんど無いに等しい状態なのにお客様からは何の文句も出てきません。問い合わせもほとんど無いですから...(カナシイ.....)。

 でも、私も含めスタッフは皆 Every Body Welcome ! です。

 お客様が求める物がそのお客様にとっての良い楽器であって、決して「これしかないからこれを買え」的な押し売りをするつもりは全くありません。

 お客様と話をし、好みを探り、必要だと思っている物を探りあて、何がピッタリなのかを見極める、というかなりパーソナルな付き合いをお客様一人一人と、しかも短時間で行なわなければなりません。

 この行為を正しく行なうには、自分自身かなり勉強していなくてはいけません。だから、楽器に詳しくなっちゃったんですねー。量販店を批判するわけではありませんが、流行の商品を右から左へ安く売り捌くというのは我々専門店の流儀ではないのです。

 私もかつては現役プレイヤーとしてブイブイ言わせていたと思われる時期もあるのでそれなりに楽器に対するこだわりはあります。でも、楽器店の店員となると自分を押し通すことは不可能だし、自分の好みをお客様に押し付けることは犯罪行為といって良いでしょう。

 では、何を持ってして良い楽器を判断しているのでしょう。

 もちろん、お店的には良く売れる楽器が良い楽器といってしまって良いのですが、そう言っちゃうと終わってしまいますね。

 ここから、私が考える「良い楽器論」を大公開しちゃいます!!!!

●世に存在している楽器はすべて良い楽器である

 結論から言ってしまいましたが、これがすべてです。

 値段が高い楽器、安い楽器、売れる楽器、売りにくい楽器、どれもこれもすべて良い楽器です。ただ、この論理に当てはまるにはふたつだけ条件があります。

 ひとつめは、「ちゃんと楽器であること!」

 当たり前のことなんですが、中にはひどい物もあるんです。それは、とにかく安い物を作ることだけを主眼とした「見た目だけは楽器という体裁を持った粗悪品」です。まあ、こんな物は論外ですけど.....。

 ふたつめは、「開発コンセプトがしっかりしており、それが実現されていること」

これが大事です!!!!!!!!! 何度も言っていますが、楽器の好みというものはプレイヤー個人個人によって違います。楽器を選ぶ人が欲しいと思った物がその人にとっての良い物であり、決して単純に決められるものではありません。極端なことをいうと値段が安い入門機種であっても自分がイメージした音が出せるのであればそれはそれでOKということになります。

 店頭で接客していると良くこんな人に出会います。

「楽器を買い換えたいんだけど、何か良いの無い?」

これでは、どのような楽器を求めているのかさっぱり分かりません。また、

「今、14"×5.5"のスネアを持っているから、ピッコロスネアが欲しいんです。」とか、
「ウッドスネアは持っているから、今度はメタルスネアを買おうかな。」

 別に間違いじゃないですが、本当に今その楽器が欲しいかどうかは疑問に思ってしまいます。どんな音が欲しいのかをしっかり見極めた上で楽器探しをして欲しいものです。

 楽器店の店員をしていると、毎日たくさんのプレイヤーと接し、様々な要求を聞かなければなりません。人それぞれ感じ方、考え方、好みが違うので、それぞれのひとが求める音がどんな物なのかを把握できるかどうかが店員としての能力と言っても過言ではありません。

 どんな楽器でも冷静に分析し、その楽器の良さが何処にあるのか、その楽器はどんな特徴があるのかを判断しなければなりません。

 そこで重要になってくるのが先に書いた「製造コンセプト」なんです。メーカーが何を意図して、どんな物を、誰をターゲットとして作っているのか。そして、そのコンセプトが何処まで楽器に反映され実現されているのか。この部分を考え、探っていけばその楽器が良い物なのか、悪い物かが判断できるわけです。

 自分の個人的な好みを超越したところで、すべての楽器を良い物だと認められる広い心を持つこと。これが大切なのです。


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