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(テキスト:西尾健二)

ためになるかどうかはあなた次第!?
「ドラマーのための雑学講座」

第8回
奏法と音



 前回まで何回かに分けてサウンドメイキングについて書いてきました。
 セットが組みあがり、音が決まったら、ドラマーが次にやることは「叩く:演奏する」ことですね。今回からはこの叩くこととそれによって引き出される音の関係について考えていきます。
 ドラムを演奏する際の必需品として真っ先に上げられるのは、スティックですよね。その他のものはたいてい練習スタジオにあるし。今回はこのスティックとスティックの持ち方、スティックによる打撃による音質への影響というものを考察していきたいと思います。


§1 「まず手、腕ありき」を理解する

 皆さんの中には、ドラム演奏(手に限った場合)はスティックでするものだと思っている方が大半でしょう。でも、本当にそうなのでしょうか?

 突然ですが、手でテーブルを叩く動作を(実際にやっても良いし、連想だけでも良し)してみてください。おそらく100%に近い確立で腕全体を動かし、手のひらをテーブルに当てていると思います。この動作こそが「叩く」という基本動作になります。

 コンガを始めとするパーカッションを演奏する方はお分かりだと思いますが、手を使って心地よい音を出すには、腕全体を使って、腕全体の重みを打面に伝えていかなければなりません。小手先だけの演奏では決していい音はしないはずです。

 ところが、スティックを手にした瞬間、これまた大半の人が手首や指重視の動きに変わってしまっているはずです。スティックでドラムを叩く時と、素手で何かを叩く動作を比較すると、そこにはいくつかの違いを見出すことが出来ます。

・スティックを持つことによってリーチが長くなる。

・スティックを持つことで見かけ上、腕の関節がひとつ増える(グリップの支点部分)。

・素手の場合、手のひらや指先が直接打面に触れるため、打面との接触の仕方による出音の違いが認識しやすいが、スティックを持つことにより、スティックの軌道、スティックのあたり方、スティックの持ち方等、気を配らなければならないことが増える。

・スティックを意識した場合、打面と接する部分の脳からの距離が離れることにより反応時間がごくわずかだが増える。

・スティックを持つことにより打面からの反動を利用することが出来る。

ちょっと考えただけでもいろいろなことを思いつきます。
 ここで注目して欲しいのが2番目から4番目の項目です。スティックに意識がいっていると、スティックをコントロールするためにいろいろとやらなければならないことが増えてしまうわけです。
 しかし、スティックが手のひらの延長の物というように考えることが出来ればどうでしょう。極端な考え方をすると、自分の手のひらと同じ感覚でスティックが使えるとしたら、自分が出したいと思っている音が自分の意志でコントロールすることが出来るようになるはずです。しかも、自分の手で叩くわけですから叩きたい目標をはずすことも無く、かなり楽な演奏が出来るようになるはずです。


§2 グリップの支点

 市販されている教則本を見てみるとスティックのグリップの基本は「人差し指と親指でスティックをつまみ、残りの指を軽く添える」と言う表記が一般的です。
 しかし、私はこれがそもそも間違いではないだろうかと思っています。この持ち方だと前述の「間接がひとつ増える」状態になってしまい、ストロークがスティック中心の考え方に陥りやすいはずです。手のひらと同じ感覚でスティックを操りたいのであれば、どちらかというと支点は小指がわに来るはずです。

 私自身の基本グリップは「小指でスティックを巻き込み、中指の上に載せ、親指と人差し指はスティックの左右のぶれを無くす支えとして使っています。このグリップでは、ダブルストロークなどのリバウンドを利用するフレーズには対応できませんが、基本的なシングルストロークはコンガを叩いている時と同じような感じで叩くことが出来ます。

 しかも自分自身の感覚でダイナミクスを容易につけることが可能です。スピードも練習次第でかなりあげることが出来るはずです(ちなみに現役時代の私は、テンポ230ぐらいで16分音符が1分間ぐらい叩けた.....はず)。

 少し触れましたが、この「手のひら感覚グリップ」ではリバウンドを利用したフレーズには対応できません。そこで必要になってくるのが、「支点の瞬間移動」!!
 小指側で握っていたグリップを瞬時に親指&人差し指(または中指)に移し変えるわけです。というか、しっかりホールドしていた小指をリリースするかしないかの違いだけかな....。
この2種類のグリップを変幻自在に操ることが出来ればあらゆる基礎トレーニングがより効果的に行えると私は信じています。

※この項で記述したことは全て私の主観のみによるものであり、これだけが正しいというつもりはまったくございません。私が「間違っているのでは?」と書いたグリップもひとつの正しい方法であり、実際にプレイをする人それぞれのやりやすい方法であればそれらは全て正しいものであります。


§3 「手のひら感覚グリップ」の利点

 プレイに関することを専門の先生方の前で展開するのもなんなので、力学的見地から手のひら感覚グリップの有利な点を考えていきます。
 パワープレーヤーである私が言うことですから、全ての人に当てはまるとは言いませんが、参考になると思いますので飽きずに読んでみてください。

<その1> 腕が持つエネルギーを伝えやすい。

 よく、大きな音を出すときはアームショット、小さい音を出すときはフィンガーショットを使うといったことを言う人がいます。でも、アームショットとフィンガーショットでは音質に違いがありすぎます。これは、打点に加わるエネルギーの質が違いすぎるからに他なりません。

 アームショットでも練習如何でかなりのスピードが出せることは書きましたが、同じショットでダイナミクスに差をつけられたほうが良いに決まっています。このグリップを用いると必然的に腕全体を使ったストロークが必要になり腕自体が持つエネルギーを打面に伝えやすくなるのです。
 そして、腕全体を使ったストロークがマスターできれば「スティックを動かすという動作は腕に任せ、手首から先は音質の調整に専念させることが出来る」ようになるはずです。


<その2> スティック全体を効果的に使える。

 スティックの遠心力を利用してパワーあるサウンドを引き出すテクニックがあります。グリップの位置を普段より自分よりに変えることでより音量を稼いだりするわけです。
 人差し指&親指グリップの場合、このグリップの位置に自動的に制限を与えていることになります。多分、説明しなくてもわかっていただけると思いますが、、、、、。

 これに比べ、手のひらグリップは、スティックのグリップエンドの限界ぎりぎりまで利用することが出来、しかも腕のエネルギーまで加えやすいので効果倍増どころか無限大です。
これで今日から貴方も「爆音ドラマー」!!


<その3> 腕全体を利用することでコントロールすべき部位が脳に近く、しかも余分な間接が増えないため、より自分の感覚に近い、ダイレクトな演奏が出来る。

 本題に入る前に、さっきから腕全体を使うと書いていますがいったいどういうことなのか説明します。

 スティックを打面に向かって振り下ろすという動作は、基本的に肘から先を伸ばす動作になります。このとき腕の筋肉としては上腕部の外側の筋肉「上腕三頭筋」を使っているはずです。
逆にスティックを引き戻すときにはいわゆる力こぶと呼ばれる「上腕二頭筋」から前腕部の肘の付け根あたりの筋肉を使います。

 しかし、これらの筋肉だけを意識して上下動をするとまるでロボットのような動きになってしまいます。そこで大事になってくるのが肘の存在。
 筋肉が動力だとすると、肘は舵のような役割をします。高く振り上げたいとき、左右に打点を移したいときなど、肘で腕全体をリードすることで楽に動かせるようになります。(詳しいことが知りたい方は是非お店にきてください。)

 前置きが長くなりましたが、要するにスティックを振る=腕を振る、という感覚になればより自分の感覚に近い動作が出来るようになるはずだということ。脳に近い部位によってコントロールできれば、素早い反応が可能だと考えることはあながち間違いではないような気がするのは私だけではないと思います。
 スーパードラマーと認識されているドラマーの演奏を見ると、上腕三頭筋が異常に張っている人が多く見受けられます。細かな音符でも腕全体で叩いている証拠です。


§4 まとめ

 今回はスティックのグリップに関する私の意見を語らせていただきました。
 ただし、あくまで私個人の考えであり、私個人が出したいと思った音が出せるための理論でありますから、万人に共通するセオリーであるという意識はまったくありません。でも、1度試してみる価値はあると思うのですがいかがでしょう。


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