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今月のおすすめ担当  リズケン講師・山村牧人
STILL LIFE (talking) / Pat Metheny Group

 音楽は素晴らしい。耳から摂る栄養と呼びたい。ある時はエネルギーを、ある時は癒しを与えてくれる。今回のオススメは、私にとってそんな存在のアルバムとして「STILL LIFE (Talking) / Pat Metheny」を取り上げた。

 このアルバム、音楽好きな人ならば大概の人が知っているほどの著名なアルバムだ。ここでいう音楽好きとは、宇多田ヒカルが大好きで毎日50回聴いているとか、ファンク大好きっすドカチキパカチキ〜とか、そう言う人よりも、ひとつのジャンルに飽きたらず、いろいろな音楽の美味と栄養を求めて食べ(聴き)歩いている人と言える。
 音楽にはいろいろあるけれども、このアルバムはいろいろな面を持っている。メロディやハーモニーが気持ちいいという、音楽としての本来の良さもさることながら、楽器フリークが楽しめるような演奏技法的も盛り込まれている。また、とてもアコースティックなイメージで癒し系なサウンドであるけれども、ライヴにもレコーディングにもかなりの機材を用い、エフェクトや打ち込みなどを使っていたりもする。安直に「テクニックばっかりの音楽なんて」「生の演奏っていいねぇ」なんて言ってしまうのは危険なのだ。

 なんていうか、爽やかで、暖かくて、リゾートっぽいんだけど都会的で、理性的だけど野性的、クールなんだけど情熱的、悲しくて嬉しい気分にさせられる。

 正直言って、このアルバムはもうずいぶんと長いこと聴いている。ドラマーとして、ドラムのカッコイイ曲に没頭する時期もあったし、ビ・バップばっかり聴いてみたり、ラテンものが好きになったり、そういえば子供のころにショパンが好きだったと引っ張り出してみたり、ポップスを改めて聞き直したり、変わりゆく自分音楽時代の中で、その時々の好みとは無関係に引っ張り出して聴いている。そして、いつ聴いても満足し興奮させられて、癒されるのだ。たぶんそれは、このアルバムが持っている多様性というか、形式論ではなく、いろいろな音楽の要素をミックスしているからなのだと思う。クラシック、ジャズ、ポップス、ロック、ラテンなど、様々な音楽の中にある楽しみが、このアルバムに詰まっているのだ。 

 始めてパット・メセニーグループのライヴ演奏をビデオで見たとき、演奏風景にちょっとビックリしたことがある。ドラマーのポール・ワーティコのシンバルの演奏法が、実にアラっぽいのだ。パイステのフラット・ライドを、腕をブンブンと振り回して叩いている。繊細で美しい印象のシンバルのレガートが、実はゴンゴンと叩きまくったものであったと知って、なるほど一見マイルドで優しく綺麗で美しいと感じるものの中身はこれだったのかと感じたのである。
 また、ライル・メイズが使っているプロフェット5というシンセを始めて弾いたとき、その音に感動して涙がちょちょぎれたことがある。弾くといっても「これがライルメイズの音なんだぜ」と言われて、鍵盤をふたつみっつ押しただけである。プロフェットにつないだヘッドフォンから流れてきた音は得も言われぬサウンドで、音色を聴いているだけでゾクゾクとしてきたのだ。この人達はとてつもないサウンドを使いこなして創り上げているのだなと驚いたものであった。
 それから何年か後、メセニーのギターの音を生に近い状態で聴いたときに、これまた正真正銘のメセニーの音だと感心させられることがあったのだが、機材を駆使してよい音色を作り出しているのではなく、そもそもこの人達の心の中に、美しく力強い音が流れているのだろうと感じざるをえなかった。

 我が家にはこのCDが2枚あるが、ジャケットを開けてみると、ふたつとも中身がない。レッスンの時に「このCDはいいんだぜ」と言って、学生に貸してしまってそのまま返ってこないのだ。今となっては最後に誰に貸したかもわからなくなっていたりする。自分では、Macの中に取り込んであっていつでも聴けるせいか、どこかで誰かに栄養を与えているかと思うと、まぁそれもいいかな、なんて思えてしまうのだった。

1. Minuano (Six Eight)
2. So May It Secretly Begin
3. Last Train Home
4. (It's Just) Talk
5. Third Wind
6. Distance
7. In Her Family


Pat Metheny (Gt), Lyle Mays (Key), Steve Rodby (B), Paul Wertico (Dr), Armando Marcal (Perc, Vo), David Blamires (Vo), Mark Ledford (Vo)


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