以前私が緑地管理業務に携わっていた頃、都から依頼された仕事だというのにいつもサングラスをかけ靴の踵をふんで作業していたおっさんがいた。
深刻な話など一切せず、いつも冗談ばかり言っている人で、マイペースなその日暮らしの肉体労働者だった。
面接の時でさえサングラスをかけていたので何故だと問うと、自分の目がよくない事を面白おかしく教えてくれた。靴の踵のことは何度か社長に注意されていたが、「これが楽でいいんだよなぁ。」と言って最後までふんでいた。
飯を喰うのが異常に早く、昼休みにはさっさと弁当を平らげ、地面に大の字に寝転がり手足を思い切り伸ばして、「こうしているときが一番幸せだ。家じゃ狭くてなぁ。」と言っていた。
私は、多分ちいさなアパート暮らしであろううだつの一生上がりそうもないおっさんと接し、この人も現代社会に迎合できない、それ故に暗い過去をもつ人なのだろう、と勝手な推測をしていた。回りにはそうおもわれる連中も少なからずいたが、このおっさんは陽気で前向きで、私はこの人がとても好きだった。
たまに仕事の帰り道、一緒に百貨店の上の階にある展示 場に絵や書道を見に行き、これはあーだあれはどーだと冷やかしたりしていた。古書店に行っても芸術関係の本に一生懸命なおっさんなので、昔何かやっていたのかと聞くと、笑ってはぐらかされた。
その後何度か同じ質問をしても冗談でかわされ、終いにはあまり過去の事は聞かないでくれと、映画の中でしか聞いたことがなようなセリフを聞いてしまった。
このおっさん、前述したがとても陽気で、仕事の合間いつも歌をうたっていた。決してうまくはないのだが、きいていて本当に「うたをうたう」のがすきなのだなと思わせるうたいっぷりだった。会話の途中でその内容に関係する歌をいきなりうたいだすのも常で、煙たがる人もいたが私は嫌な気分はしなかった。
知っている曲の数が半端ではなく、自分が今勝手に作ったのだろうと言っても、これは
誰々の何々という曲だと説明されたが、私の知っているものはほとんどなかった。
ある日、たまには違うところへ寄り道して帰ろうと中古レコード屋に誘った。そこでおっさんに名盤だとすすめられたのが、よしだたくろう「元気です。」。
おっさんとの想い出がそうさせているのかも知れませんが、とても素敵なアルバムです。歌詞が素晴らしい。おっさんは、日常のことをうたいだしたのはたくろうが先駆けだと言っていました。「親切」という曲の詞は寒気がするくらいです。1曲目の「窓をたたいて」「タンポポをそえて」という箇所のうたいまわし(?)は最高で、僕はこううたいたいのでこううたいました、といった感じです。レコーディングした日付がまたのんびりとした日付なので、確かめてみてください。
詞もうたいまわしも楽曲としても好く、真面目でおちゃらけていてバラエティーに富んだアルバムです。楽曲としての良さには、バックのミュージシャンが大きく貢献していると思われます。
ドラムスは皆さんご存知の林立夫さんですが、私はこの方をよく知りません。ベースにはあの後藤次利さんも参加していますが、私はこの方もよく知りません。名前はよく聞く人たちなので、なにげなく耳にしていたあの曲も実は、という人たちだろうと思われます。
ピアノ・オルガン等は松任谷正隆さんで、車関係で顔はよく知っています。そのような意味ではピストン西沢さんと似ています。(もし、人違いならすみません。)
フォークソングの時代背景など知らない私ですが、そんな事とは関係なく、泣き笑い感動できたアルバムなので、きいてみて下さい。特に20代後半の方や、電車の中吊り広告の一行を読んで全てを知った気でいる見出し人間の方にお勧めです(別に深い意味はありません)。
よろしければどうぞ。 |