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(テキスト:石川 武)

今回の偉人さん

Vinnie colaiuta
(ヴィニー・カリウタ)
 バークリー音楽院卒業後、LAに渡り、フランクザッパのバンドで2年半活動。その後10年近くスティングのバンドに参加し、マドンナ、デュランデュラン、セリーヌディオン、そしてチックコリアなど数多くのセッションワークも活発になっていった。
 日本でも活躍しており、宇多田ヒカルの初ライブや、松任谷由美のレコーディングでの演奏は記憶に新しい。
ヴィニーのドラミングはコレで聴く
Night Walker
Gino Vannelli
DOCUMENT
KARIZMA

ビニー・カリウタ その2
 前回の原稿で、私はヴィニーがあたかもうそつきであるかのような、またはいやなやつであるかのような締めくくりをしてしまいました。が、実際は私もそんな風には微塵も思っていません。実は繊細で思いやりのある人なのです。そんなことがわかったのは、彼の、2回目のセミナーのときでした。そのセミナーは渋谷のヤマハで行われました。

 そのセミナーの日、私はヤマハ・ビッグ・ドラマーズ・キャンプの打ち合わせで同じヤマハのR&Dというところにいました。他にも見砂氏をはじめとするヤマハのそうそうたるドラマーが集まっていました。キャンプに参加する講師陣もその日ヴィニーのセミナーがあるのは知っていたので、皆早く会議を終わらせようと必死。するとヤマハの方が、「大丈夫、みんなの席はちゃんとキープするから」とうれしいお言葉。なーんだ、ということでのんびりと会議を進めていました。何分かすると「ごめん、思った以上に当日券が出ちゃって、みんなはステージ上で見て!」と・・・。会場に行ってみるとステージの上にはヴィニーのドラムを囲むように半円形にいすが並べられていました。諸先輩方はともかく、私のような若造がこんな高い席で見ていいのだろうか?案の定、客席にはキャンプには参加されない、他の諸先輩方がいらっしゃってる。「あとでいじめられるかな・・・とほほ・・・」とまあこんな感じでスタンバりました。

 いざ本番開始、となったんですが、今度はヴィニーが出てこない開演時間を20分近く過ぎているのに出てこない。ヤマハのスタッフがばたばたと楽屋とステージを行ったりきたりしています。やっとのことで舞台に姿を現したヴィニーはなんと汗だく。何処かで走ってきたの?ってな様相です。ヴィニーはスタッフにはさみをよこせ、というと自分のTシャツの袖を切り離しました。ノースリーブになったヴィニーはやおらドラムに座ると20分近くソロを叩きました。その音ときたら、早いデカイすごいの三拍子。ソロが終わるとマイクを握り、簡単な挨拶のあと、「今日は東京のセミナーということで、僕の他にも日本を代表するヤマハ・ドラマーが集まってくれてるので、僕から紹介するよ。端から・・・・」ということでステージ上のドラマーを端から紹介し始めました。しかもちゃんと名前を覚えて。(紙かなんか見てたかな?)それにしてもなんと律儀なことなんだ。私のような若造ドラマーまで紹介してくれるなんて・・・(涙)あまりの感激で一回目の変な印象は一新され、ヴィニーには後光がさしていました。

 後で聞いた話なんですが、前日に大阪でセミナーをしたヴィニーは、東京への電車の中で「東京はやだ!」を連発していたそうです。なぜと聞くと「東京は日本の音楽の中心地だろ。そんな場所で、日本のトップドラマーが集まるような場所で、俺はセミナーなんかやりたくない」と、いまにも逃げ出しそうだったんですって。その挙句が本番前の30分にも及ぶウォーム・アップだったそうです。本番中もセミナー後も、そうなことは一言も話しませんでした。なんて繊細で、なんて気遣いで、なんて努力家で、なんてシャイで、なんてプロフェッショナルなんだろう。私は言葉が出ませんでした。


今月の一言


「・・・・・・・・・・・・」

解釈
偉人さんは、語らずとも様々な努力をし、
様々な状況に対応すべく渾身の力を振絞っている!!

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