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より身近に考える「ドラマーのための物理学講座 -実践編-」
第 4 章 楽器を物理的に考察する意味 〜 これまでのまとめ 〜
これまで何回かに分けて楽器に関する物理的要素とそれらをより実践的に考える応用を考えてきました。なんだか難しくて訳が分からないことも多かったと思います。では、どうしてこんな面倒くさいことを知っている方がいいのでしょうか?
今回はこれまでのまとめという意味を含め、なぜ楽器に関する論理的な検証が必要なのかを考えていきたいと思います。
§1 理論と現実
楽器を手にし、演奏するという行為はあくまで音楽を表現する為であり、楽器その物を理解するために多くの時間を費やすのは無駄な行為と言えるかもしれません。
確かに、「習うより慣れろ」というのは事実だし「とりあえずやってみよう」というのも大切なことです。試行錯誤を繰り返していくうちに身につけた知識や経験はなかなか忘れないものです。
逆に他人から聞きかじった付け焼き刃的な知識をいかにも解っていると思い込むことは危険なことです。安直に答えを得ようとしても物事の本筋にはなかなか到達できないし身にもつけられません。
しかし、ドラムという楽器はこの「試行錯誤」できる幅があまりにも広すぎるため、ある程度のガイドラインや法則を知らないと(特に音作りに関して)ドツボにはまる可能性が非常に高くなってしまいます。
理論ばかりに偏るのは考え物ですが、きちんとした考察と経験の両面をつなぎあわせる作業が大切だと思うのはこの「ドツボ」を迂回する為に必要なことだからです。
自分のやりたい音楽、または自分の出したい音を具現化するためにあれやこれや苦労するのは出来れば避けたいですよね。ですから、「理屈ではこうなるはずだ」という基本的な知識を持った上で「実際のドラムはその理屈とどう違うのか」ということを把握出来れば実際の音作りはかなり楽になるはずです。これは楽器選びに関しても同様です(そしてプレイ自体にも当てはまります)。
とにかく一般論としてのドラムの構造と理論と自分自身が体験したことを照らし合わせ、自分が欲しいと思ったサウンドがどうやったら引き出すことが出来るのかを考えることで、不必要な時間をかけないでよりプレイに集中できる環境を作り出せると信じています。
§2 一般論から個人論へ
これまで解説し考察してきた内容はあくまで一般論としての物、そして多分に私個人の好みを反映したものです。この連載を始めた最初にお断りしたようにサウンドの好みは人それぞれであり、ひとつの事象をとってもすべての人に共通するたったひとつの答えと言うものは存在しないかも知れません。
そこで大切になってくるのが「あなた自身の為の原理、原則」です。
先のセクションでも同様なことを言いましたが、一般論としての原理を知った上で、その原理が自分が実際に感じたことと比べてどうなのかを検証していくことであなた自身の楽器に対する物理的理論が出来上がっていくわけです。
「明るい音」と一言でいっても、感じ方は100人のドラマーがいれば100通り有ります。明るい音が欲しいと思ったら、その音を作れるのはあなただけなんです。とにかく、一般的な理論と自己の経験に基づく知識を比較検討した結果で得られる「あなた自身のセオリー」を確立することが重要になるわけです。
§3 自分の好み
あなた自身のセオリーを確立する為には、あなたの「好み」をしっかり把握する必要が有ります。意外なことに自分が好きな音、自分が必要な音をしっかり説明できる人は少ないです。まあ感覚的なものですから言葉で説明することは難しいかもしれませんね。
自分が好きな音、自分が必要な音、自分が演奏する音楽にマッチした音etc.が解っていない限り本当の意味でのいい楽器に出会うことは不可能です。これらを判断する為には、たくさんの音楽を聴いて、見て、感じ、たくさんの音に関する情報を自分にインプットする必要が有ります。
そして、蓄積された情報を必要なものとそうではないものに振り分ける作業も必要です。そこで得られた必要な情報に基づきあなた自身が欲しい音を探していくわけです。
これらのことからも、自分の欲しい楽器(音)は自分の力で探さなくてはいけないことが解ってもらえると思います。自分がイメージしているサウンド(脳みそにインプットされている音)が基準になるのです。そしてその音はあなたにしか解らない物なのです。
お店の店員に「いいスネアない?」と聞いたところで、店員さんが選ぶスネアはその店員さんの好みが基準となってしまう為、コミュニケーションがかなりしっかり取れていないとまずいことになってしまいます。店員さんに頼るのではなく、自分のイメージを具現化できる楽器を選択するために店員さんの知識を利用して自分が持っていない部分を補完してもらうという意識を持ってもらえればいいと思います。
§4 感覚、感性の重要性
音楽は感覚というかなり曖昧な価値観によって支配されています。
何度も言うようですが「良い音」というのは100人の演奏家がいれば100通り有ると思ってもらって間違い有りません。そして、「あなたが良いと思う音」はあなたにしか解りません。
また、演奏するという行為は、あなた自身の心情を楽器を操ることで音として表現するということです。あなたにとっての「良い音」という概念はあなたが音楽的に成長する過程で貯えられた膨大な情報をもとに出来上がってきます。
たくさんの音楽に接すれば接するほどその概念は深みを増し、説得力も増します。逆のことを言えば、あなた自身の引き出しにストックされていない物はあなた自身からは出てこないということです。
連載の
第1回目
でも書きましたが、楽器には良い悪いは存在せず、あなたが好きか嫌いかによって選ぶ物ですから、音そのものを感じる為の感覚、感性が非常に大切になってきます。
もしプロを目指すのであれば、そこから更に踏み込んで「この楽器はこんな音が作れる」とか、「この曲にはこんな音がはまるんじゃないか」とか、「こんな音が欲しいといわれたからこの楽器が良いんじゃないか」といったことまで判断出来る耳が必要になってきます。
楽器にはそれぞれ個性や特性が存在しますから、ある程度の理論が分かっていれば自分の欲しい音がどんな楽器から出しやすいのかを前もって判断できる場合が多くなります。
§5 まとめ
物理学に限らず学問というものは、我々の身の回りで起こっている様々な事象を解りやすく、系統だって説明する為に存在します。「こんなことが有ったけど、これはどうしてこうなるのだろう?」という疑問を解消する為にスタートしているわけです。
あなたが楽器や音楽、音に対して感じたことを「どうしてこうなっているのかな?」と自問してみることが楽器に関する物理学といって良いでしょう。そして、たくさんの経験をしていくうちに様々なセオリーが出来上がり、あなた自身の楽器や音作りに関する理論が確立されていくわけです。
学問というとほとんどの人が敬遠しがちだと思いますが、堅苦しく考えず、あれこれ試してみて下さい。楽器選びに関わらず、プレイそのものやグルーヴにも当てはまる、あなた自身の為の理論が見えてくるはずです。
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